第16話 愛莉の視線

 お昼になった。海の家は、なんでこんなに人がいるのか、考えられないくらいに混雑していて、並ぶ気がしない。

 でも、おなかはすいていた、

 よろよろと浜辺に戻ると、そこには美味しそうなバーベーQがあった。


「え? これ準備してくれたの!?」

 材料を含めて、必要なもの全てを持ってきてくれるサービスがあるらしい。

 それならそうと、言っておいてくれればいいのに!

 空腹も手伝い、怒りモードの私だったが、美味しいお肉を口にすると、すぐに機嫌は直った。美味しいものはどんなときでも幸せな気持ちにしてくれる。

 今日、海に来て初めて笑ったかも。


 愛莉は、時輪に肉を焼かせ、自分は少し離れたビーチパラソルの下で、食べることに没している。肉だけでなく、ソーセージや野菜も、普段は苦手で食べないイカまでもが、とっても美味しかった。


 食後は、ビーチバレーだの、スイカ割りだとの次から次へとやらされた。間違って時輪の頭を割りそうになったり、いつの間にか楽しく笑っていた。


 めいっぱい遊んで、夕闇が広がったころ、海辺が少し静かになって、私は砂浜に腰を下ろした。波の音が大きくなり、心地よい夜の海風が吹いている。

「悠里絵、楽しそうだったわね」

 愛莉がやってきて、横に座った。

「うん、なんだか思ってたより楽しかった」

「そう。よかった」

 私を見る愛莉の視線は不思議な温かさを帯びていた。

 例えるなら、懐かしい人に再会したかのような、ちょっと久しぶりに会う好きな人を見るような、そしてそれは女の子らしい視線。


「愛莉はなんでいつも私のことを見ているの?」

 普段はどんなことを聞いても即答する愛莉が、珍しく答えを探しているみたいだった。

「う、うん、それは……」

 やっと愛莉が口を開きかけたのに、八束と時輪の大きな声が私たちの会話を遮った。


「おい、女子! 花火やるぞ! こっちへ来いよ」

 話すのを途中で止めてしまった愛莉は、八束と時輪の方に頷いて見せると、立ちあがって、私の手をとった。

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