第13話 造られた苦しみ

「アイリ!」

「はい」

 返事が聞こえた。

「ちょっと、上がってきてくれ」

「了解しました」


 フレイアがまだ何か言いたげなモイラを即した。

「もう行っていいぞ。モイラ」

「……」

「どうしたモイラ? どうかしたか?」

「ハイ……」


 モイラは確かに、何か言いたそうにしていたが、アイリが近づいて来ると、フレイヤに頭を下げて、自席へ戻って行った。


「アイリ、モイラの調子がおかしい」

 モイラの後姿を見送ったフレイヤがつぶやく。すかさずアイリが空中にバーチャルコンソールを展開した。


「確認します。コマンドモード起動。”login Airi password *********”」

 瞳を閉じて、パーソナル回線をオープンしたアイリは、マスティマのシステムに、管理者権限でログインすると、現在のモイラのステータスのチェックを始めた。管理する者のシステムオペレーターが答える。

「了解。コマンドモード起動確認」


>check F-CTL-A11009 mode Administrator.

>answer F-CTL-A11009 status Normal mode point 27200 rank 3A


 アイリが目を開けた。


「報告します。現在モイラは正常起動中です。特に問題は見当たりません。マスティマでのランクは3Aです。フレイヤまたはアイリのどちらかが、機能を停止した場合、モイラは一つクラスが昇格して、クラスタパートナーになります」


 クラスタパートナーは、艦隊の指揮官である”判断する者”が行動不能の場合、すぐに代わりが務まるように選ばれた、”判断する者”と同じ、知識・経験を共有する人物のことだ。


 もし仮に今、フレイヤが行動不能になった場合、五秒以内に、アイリが”判断する者”となり、艦隊の指揮をとる。同時に、マスティマで、次にランクが高いものが一人、アイリのパートナーとして設定される。現在は、モイラがアイリのパートナー候補ということになる。


「モイラが、優秀な個体なのは十分に分かっているが、今の状態は心配だ」

 フレイヤの言葉に、少し考えてアイリが言った。

「司令官。いえ、フレイヤ」

「うん? どうしたアイリ?」


 普段と違い、迷いがあるような言葉を発するアイリに、フレイヤは違和感があった。言いたいことを何度か飲み込みながら、話をしているようなアイリは初めてだ。

「私とモイラは苦しんでいます」

 アイリの意外な言葉に、フレイヤは驚いた顔をした。

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