第9話 栞をはさむ

 私は、読んでいた”Stars Logbook”から目を離しため息をついた。


「あの人がいつ来るかは分からないし、待つだけというのもなぁ。何か良い方法はないかな。そうだ!」

 私は、栞を本に挟むことにした。栞の裏に、あの人宛てのメッセージを書くのだ。

「突然ですが、驚かないで下さい。もしこれを見たら、メールを頂けませんか? 銀色の髪の人へ」


 その下に小さく、自分の携帯アドレスを書いて、私はそっと、本に栞を挟んだ。我ながら、かなり大胆な行動だと思いながら、神にも祈る気持ちだった。


「どうか、憧れの人に逢えますように……」

 普段は信じていないのに、こんな時にばかり頼みごとをする。そんな私の願いは聞き入れてもらえるのだろうか。



 家に帰ると、あらためて、私は自分がした行動を思い出し、ちょっと恥ずかしくなる。とにかく携帯が気になる。メール来ないかしら。ソワソワと、何度も同じことを妄想してしまう。来るのか、来ないのか、分からないものを待つのって大変なことなんだ。気が付くとウトウトして、ハッとしてはメールをチェック。ドキドキしたり落胆したりを繰り返していた。


 すっかり待ち疲れて朝を迎えた。

 学校に着くなり、私は愛莉に昨日の行動を打ち明けた。

「ふーん。まあ、いいんじゃない? ストーカーがその本を読んで、おかしなメールを送って来なきゃいいけどね」

 なんて夢の無い、怖いことを言うのだ、愛莉は。


「危ない人は、あんな本読まないわ。置いてある場所も図書館の一番奥だし、普通は気が付かないよ、たぶん」

 かすかに感じた不安な気持ちを打ち消すように言い返してみた。それなのに、また愛莉が怖いことを言い放つ。


「普通の人が気が付かないから、危ないんじゃないの? それにホントに存在するか分からない人宛てだし。やばいメールがきたら、即、メアド変えなよ。呼び出されてノコノコ出かけたりしたら、ブスリ」

「そっか。そうだよね」

 分かってはいたことなのだけれど、がっくりと気持ちが下がる。


「その時は、オレがついていってやるよ!」

 最近よく会話に飛び入りする時輪が現れた。愛莉とだけ話していると、いつも、私が一方的に凹まされることが多いこともあって、時輪が話に混ざるのはそんなに嫌ではなかったが、それにしても神出鬼没だ。

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