第8話 旗艦の巨砲

 光の艦隊の旗艦マスティマが停止し、円錐形の巨大な機体の姿勢を縦に起こし始める。同時に、光の艦隊第七翼が一斉に、黒き艦隊への攻撃を開始する。輝く光の束が弾けるように、前方の黒い空間に打ち出されていく。


「マスティマのウェポン選択」

 フレイヤの言葉を受け、武器コントロール担当の“管理する者”がウェポンの選択モードに入った。

「了解しました。主砲、光子魚雷、光子ガトリング、長距離ミサイル、分散ミサイルが選択可能です」


 フレイヤは目を閉じた。

(この戦いが最後で、世界が終ってしまうかもしれない……だが)


 男と女の魂をデジタル化する上で、基本的な構造の違いが問題視された。


 デジタル化された魂であるエーテルは白(女)と黒(男)の二種類に分けて、管理されるようになる。魂のデジタル化により、直接の交配は絶えた男と女。更なるシステムの合理化の為に、女は”光の神”、男は”闇の神”と名乗り、宇宙の両端に、それぞれの新しい国家を創世した。


 この宇宙で、最後に戦う相手は、光の神のかつてのパートナー(男)である。

 戦いに勝てば、宇宙は、白き光の女だけの世界に、負ければ、黒き男だけの世界になる。世界は単一の色となり、何の変化を見せなくなり、完全なる静の世界となるだろう。

 それは平和と安定を生み出すと考えられていた。


「しかし、争いも変化もない……単一の女だけの世界……それは同時に、世界の終わりなのかもしれない」

 フレイヤの一瞬の思考の停止の後、覚悟を決めた攻撃指示が艦内に飛ぶ。


「主砲を選択。パワー充填開始。パワーマックス。照準はオートに。トリガーをフレイヤへ移行」

 武器コントロール担当のオペレーターが復唱する。

「了解しました。照準をオート、最大ダメージ効率へセット。トリガーはフレイヤに移行」


 マスティマのメインコンソールに、黒き艦隊の密集エリアが表示された。

「全エネルギーをジェネレーターに送信開始。主砲ラグナロクの封印を解除します」

 オペレーターからの主砲の活性化の報告と同時に、フレイヤの前に光のトリガーが現れた。パワーの循環を表す光の魔法陣がフレイヤの手の甲に光り浮き出る。


「主砲ラグナロク最終段階へ。オールセキュリティ解除します」

 オペレーターからの最終報告が船内に響く。

「ラグナロクへエネルギー充電完了。安全弁解放。発射準備完了」

 円錐形のマスティマの上部の一部が開き、直系二キロメートルを越える、巨大な砲塔が姿を現す。全長、二十キロメートルを越える旗艦マスティマのリーサルウェポンが発射の指示を待つ。


フレイヤは一度天を仰ぎ見た。

「世界が終ってしまう……だが、私は戦う事しか知らない。戦い続ける事しか出来ない……くそ」

 黒き艦隊の密集エリアへと照準を合わせ、力を込めて光のトリガーを引いた。巨大な閃光が、宇宙の全てを白く染める。

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