第6話 クラスメート

 翌日、教室の自分の席で、私は大きなため息をついていた。


「昨日のあの人のこと、夢だったのかなあ。うーん、おかしいなあ」

「何? 夢に出てきたの? 昨日の彼氏が?」

 席に近づき独り言を拾い上げた愛莉とは、同じクラスだった。


「おはよう。愛莉」

「彼氏だって!? 悠里絵、彼氏が出来たのか?」

 後ろから大きな声がする。時輪ときわだ。


 時輪はそれこそ、今時珍しい普通の男の子で、特技がない代わりに、人に嫌がられる事もない。たまに大げさな仕草や大きな声を発する、クラスメイトとしては、まあまあな人物だった。ひとりの方が気楽だと思ってしまう私でも、最近は時輪が近くにいることに慣れつつあった。


「それで、どんな男だ? オレよりいい男なのか?」

 時輪の言葉に、愛莉はシゲシゲと時輪を見つめている。

「あんたと比較すると、幅が有りすぎて困るけど、まあこんな男よ」

 愛莉が自分のカバンから一枚の絵を出すのを見て、すごく嫌な予感がした。


「ええ? 愛莉また描いたの? あの人の絵……まって! ちょっと~~」

 チラリと見えた絵、嫌な予感は的中していた。愛莉が絵を描いていることを知って動揺する私を見て、時輪はさらに興味深々だ。


「どれどれ、オレに見せてみろ」

「絶対ダメ! 人の夢を見たらダメだって! こらぁ~~」

 私は叫びながら、絵を取り上げようとしたが、それを簡単に回避する愛莉の動きは素早かった。


「普段は運動を嫌いだとか言ってさ、その動きは何なのよ! て、それどころじゃないよ~~よこしなさいよ

!」

 再びひらりと、みをかわした愛莉が悪戯っ子の顔をしている。ますます、嫌な予感が心に広がる。


「いいじゃん、別に。作者は私なんだから版権は私にある!」

 腰に手を置き、さっぱり意味が解らない、主張を愛莉がした時、愛莉の手から、絵をスッと取った男が居た。


 よく私たち3人の居るこのD組に出没する、A組の八束やつかだった。

 先週、私は八束に告られたけれど、返事は適当に誤魔化してあった。

 男の子に興味が無いわけじゃない。こうして理想の人もいるわけだし。つまり理想が高いのだ私は。


「おお、綺麗な女の子だな。これ愛莉が描いたのか?」

(うん? 女って、私の理想の人が女の子に見えるの?)

「それ、悠里絵の理想の彼氏らしいぜ」

 時輪の言葉を聞いて、愛莉の絵を今度はじっくりと見ながら、八束は言った。

「どう見てもコレ女だろう? まあ、男だとしても、オレの方が絶対いい男だけどな」

 これには全員、お手上げポーズ。

 私の高校での生活は、いつもこんな感じだった。まあ、平和と言えばそうだし、クダラナイ事に懸命になれるのは幸せな事かもね。


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