第5話 旗艦マスティマ

 旗艦マスティマの所属する光の艦隊は、十二翼に別れており、一つの翼は、約五千万の船から成る。


 十二翼の内の一翼、光の艦隊第七翼の戦船に乗る、フォームを得た光の戦士は約二億人。全体の九十八パーセントは、自分のエーテルを、エーテル機関により増幅し、艦隊のエネルギーを生み出すフォームを持つ、”力を生む者”。


 残りの約ニパーセントが、艦隊の全システムを管理、運営する、”管理する者”だった。そして、一翼に一人だけ、指揮する、”判断する者”が存在する。


 この第七翼の美しい光の戦士であるフレイヤが総司令官であり、”判断する者”だった。フレイヤは長い銀髪と、女性にしては長身であり、細身の体型に、知性的な光を帯びるシルバーグレイの瞳を持っていた。


「随分と遠くまで、来てしまったものだ。少し故郷が懐かしいな」


 中央の椅子に座っている、銀色に輝く美しいシルエットのフレイヤがつぶやく。そこへ、”管理する者”の主席で、艦隊副司令官のアイリが近づいた。


「今後の作戦ですが、いかがいたしますか? それか・・・家が恋しくなられたのなら、いっそこのまま戦いはせずに、母星へ帰っちゃいますか?」

 少しおどけたアイリの言葉に、フレイヤは微笑んだ。

「全ての敵を記録して、そして滅ぼす……それが私の存在意義なのだ」


 マスティマ最上層のコントロール室の天井には大きな窓があり、まるで宇宙の深淵を覗いているかのような光景が広がる。それをしばらく仰ぎ見つめて、光の艦隊第七翼艦隊総司令官のフレイヤは静かに立ち上がった。


「このまま進むぞ。速度、隊形維持。ステータスを戦闘準備へシフトせよ。調整を頼むアイリ」

「了解しました。総司令」

 アイリは敬礼し、自分の席に戻って行った。


 光の艦隊の総司令官として、これまで全ての戦いに勝ってきたフレイヤは、スクリーンに映る、漆黒の銀河を見つめていた。前方に広がる銀河は数千万の、闇の神の船”黒き艦隊”で埋めつくされている。


「勝っても負けても、これが最後の戦いになるのか」

 フレイヤはそっと瞳を閉じ、少し離れた自席からその様子を見ていた、副司令官のアイリが再び近づいてきた。

「司令官、何か問題でも?」

 心配そうなアイリの声にフレイヤは我に返り、シルバーグレイの瞳を開ける。


「ああ、今回の戦いが最後になるかもしれん。長かったが、我々の命令が完了するかもな」

 フレイヤの言葉に頷くアンリ。

「そうです、長い、本当に長い間、私達は宇宙を旅して来ました」

 アンリの赤い瞳を見たフレイヤは右手を、無数の漆黒の船が写っているスクリーンの方に差し示した。


「我が艦隊は、これより闇の神との直接対決に入る。”力を生む者”は最大出力へ移行せよ」

 十二次元先の空で最後の戦いが始まろうとしていた。


 私は、途中まで読んだ”Stars Logbook”をそこで閉じた。

 その日はもう、あの人を見かけることはなかった。

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