第3話 Stars Logbook

 カバンから愛莉が描いてくれた絵、私の理想の人の絵を取り出して、じっくりと眺めた。


 細身で長身、銀髪で灰色の瞳。それで性格はツンデレ!?の彼氏。


「確かに居ないよね、こんな人。でも、諦めなければ、もしかしたら、いつか、少しくらいは、出会える可能性は、有るんじゃ……」


 微かな希望を浮かべる私に、愛莉の、「ムリムリ」と手を振る姿が頭に浮かんだ。


「ふぅーっ、やっぱりダメかぁ」

 腕のを真上に伸ばして組むながら、現実と空想のギャップに自然とため息が出た。


「まあ、今日は最近お気に入りの作家の小説の続きを読もう」

 席を立って、本棚が並ぶ奥のコーナーへ向かった。この図書館の書架スペースは、かなり広くて奥へ行くほど薄暗く感じる。空気中に漂うほこりが私の歩みによって、ゆっくりと動く。


 ブラインドのかかった窓からほんの少しだけ入ってくる光は、辺りの空気の流れを止めてしまっているかのようで、古い映画館の映写機の映し出す光景を見せてくれる。古い映画館の映写の光で映し出される薄暗い空間は古い本の匂いでいっぱいだった。


「確か、あの本はこの辺だったけど……えっ? ちょっと待った!」


 大きな独り言。図書館の人気の無い、古い所蔵品を仕舞ってある奥へ進み、左側にある本棚が途切れて視界が広がったとき、思わず声を出してしまった。


 幾筋にも連なる本棚の間の、狭い通路の一番奥に、その人は立っていた、細身で長身、銀髪で灰色の瞳。愛莉に描いてもらった絵の姿そのままで、本を読んでいる人。


「まさか……こんなことってある?」


 余りに現実離れした光景に、本棚の間の、十字路通路ど真ん中で動けなくなった私。視線を止めたまま、ジッとその人を見ていた。

 ひっそりとした空間に、その人のたてる、ページをめくる音だけが聞えていた。


 どれくらい、その人を見つめてていたのだろうか、ふいに後ろから声をかけられた。


「あの、すみません! 邪魔なんですけど!」


 振り返ると、細い通路を塞いでしまっている私に向かって、不機嫌そうにしている女の子が居た。


「あ、すみません、ごめんなさい」


 頭を下げ、女の子とすれ違うことができるように、身体を横にして、不機嫌な女の子とすれ違う、一瞬だけ視線を外してしまったが直ぐにあの人を目で追った。


「……えっ! いない!?」


 目を離したのはごく短い時間だったのに、もう憧れの人の姿は見えなくなっていた。


「夢だったのかな? いやいや、まさか、いくら私でも白昼堂々立ちながら寝てはいないはずだ」


 そう呟き、あの人が立っていた場所へ行ってみると、整然と並んだ本の中に一冊だけ、誰かが棚に戻したように、ほんの少しだけ前に引き出された本があった。


タイトルには、”Stars Logbook”と書いてある。




「Stars Logbook 光の航海日誌?」


 その本を手に取り、厚くて固い表紙を開いてみた。

 薄暗い映画館のような光の中の図書館の奥で、そのまま最初の章を読んでみる。


「光の神……宇宙艦隊の司令官? ”判断する者”のフレイヤ?」


 宇宙で行われる大きな戦い。物語の続きへと引き込まれる私の頭の中に、小説とは思えない壮大な世界の光景が浮かんできた。

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