第2話 理想の人

 あまりにマジマジと見られた私は、女の子相手なのに頬を少し赤くなり、そんな私の様子をじっくりと鑑賞した後、愛莉は自分の鞄に手を伸ばした。


「じゃあさあ、優理絵はいったい、どんな男の子が相手だったらいいわけ?」

 鞄からパンパンに膨らんだペンケースと、ノートを取り出す愛莉。


 (教科書以外に何を学校に持っていってるのだろう?)素朴な疑問が私を焦らせた。


「それ重くない? え、え、好み? 何の?」

 愛莉に見つめられ、頬を赤らめていた私は、いきなりの質問にどきまぎしていた。


「男の好みだろ! あんたの彼氏にしたい男とはいかなる形か!?」

 質問を明確に強固に変えた愛莉にドギマギ。


「え、えっとね……そう、背が高くて、少し痩せた感じで、瞳に強い意志があって……」


 私の勝手な想像を聞きながら、愛莉はスラスラと絵を描き始める。愛莉はとても絵が上手いのだ。


「……不思議な雰囲気を持っていて、ちょっと冷たい感じがする。でも本当は温かくってね。あとね――」


 私の最後の言葉を待たずに、絵を描き続けていた愛莉が、筆を止めて右手をあげた。


「はい! できた! 細身で長身、銀髪で灰色の瞳。それで性格はツンデレ!」

 愛莉が描き上げた絵は、私の思い描く理想のタイプそのものだった。私が言葉にしなかった髪の色まで理想を現していた。


「そう、そう! こんな感じの人だよ! 愛莉すごい! 絵がうまい占い師みたい!」


 愛莉の絵のあまりの的中率の高さに、驚き嬉しくなった私は、つい大きな声を出していた。


「ちょっと! 声でかいよ」

 店内を見渡し、再び私を見つめた愛莉は、大きなため息をついた。


「絵がうまい占い師ってなによ。それにこんな人……いるわけないでしょ!?」


 右手を左右に振り、私の理想がこの世の中に存在するはずはないと主張する愛莉。それは私も思う事だけれど、そんな容赦なく言わなくても……。


 それにしても、なんでこんなにイメージぴったりなのだろう? まるで愛莉は実際に存在する人を見て描いたみたい。完全に私の想像上の人物なのに。


「ねぇ……愛莉、これ、もらってもいいかな?」

 私の尋ねに頷く愛莉、同時に質問も投げかけてくる。


「うん? いいよ、あげる。で、明日の日曜はどうしよっか?」

「そうね、図書館でDVDとか本を見るとか?」


 もらった絵を大事にカバンにしまいながら、私は愛莉に提案するが、愛莉が今度も即座に右手を振って、意思を速攻で伝えてきた。


「無理。パス。DVDも見飽きた、字を読むと脳が燃焼する。」

 愛莉らしい答えに、笑いながらも私は再チャレンジする事にした。


「絵もいいけど、活字もいいよ。想像力が刺激されるの」

 愛莉は大きな瞳をさらに開いて、珍獣でも見るように私を見た。


 そして、再び手を左右に振る。私の提案は即座に却下されたらしい。

「悠里絵ひとりで行っておいでよ。私は久しぶりに寝まくる日曜日にするかなぁ」


 結局、今日は私ひとりで図書館に来ていた。


 文学少女じゃあるまいし、図書館通いもどうかと思ったりもするけれど、私は本が好きだった。この世界の色んなことを知りたいと思う気持ちがとても強かった。


「自分が生まれて育った世界なのにね。なんか不思議な感じ」


 既にこの図書館の本の半分を読んだ私。人の探究心と片付けられない気がする。もっと、何か、心の奥に、世界の知識を求める何かがいる気がする。


「まさか、私の中に誰かいて、その人が世界を知りたがってる……なんてね。」


 こんな事を聞かれたら愛莉に鼻で笑われるだろうなあ、夢見る少女みたいだと。


 少し古い図書館だからなのか、本は沢山あるのに来る人はまばらで、私のお気入りの場所だった。いつものお気に入りの席を確保してから、いったん椅子に座る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る