とある宇宙の片淵で。

こうえつ

第1話 セレクト

悠里絵ゆりえは贅沢なんだよ」

 髪の毛の端を人差し指でクルリと巻いてため息をつく。


「アイツって、女子に人気あるじゃないの?」

 続けて私の目の前の文句ともとれるセリフが続いた。


「私にも選択の自由があるのだ」

 私の答えに束ねた髪の先を、くるくると指に巻きつけながら親友の愛莉あいりが言った。


「ふ~~ん、面倒くさいな。付き合ってだめならポイでいいじゃん」


 午後9時を過ぎたコーヒーショップには、昼間よりも少し大きめの音量でBGMが流されていた。ゆっくりめ曲のセレクト……まばらになった店内で客の言葉が広がり過ぎないよう、さりげなくカバーされている。


 ほど良く距離が離れた会話は心地良い、名も知らぬ曲に囲まれて、静かな夜の時間になっても、私は声を落とすことなく、親友の愛莉と普段通りの大きさで会話ができている。


居心地がいい店で、親友との他愛も無いおしゃべり。とても楽しい時間だった。

今夜の話題。愛莉は私が先週、A組の八束やつかをふったことが不満らしい。


 私は特別、彼氏が欲しいと思ったことがない。あまり人と触れ合うのは得意じゃないし、友達を作るのも苦手で、ひとりで居る方が楽だと思う時がたくさんある。


 もちろん、ずっとひとりで居たいわけじゃなくって、誰かに側に居て欲しい時もあるけれど、そんな時でも一緒に居たいと思える相手は少ない。

 相手は男女に関わらず、かなり限定される。

 子供の頃から高校生になった今までも。


 自分でも困ったものだと思っていた、でも生まれ持っての性格みたいなので仕方がないと諦め気味。


 目の前でキャラメル マキアートに口をつける愛莉は、そんな私にとって、数少ない、いや、唯一の、いつでも側に居て欲しい人だった。


 性格はかなり変わっているけれど、150センチと小さく、小さな顔が強調する、大きな黒目を持つ、十分どころか、上位に入る美少女の愛莉。


 出会ってからは気が合って、ずっと一緒にいても苦にならなかった。

 それは私にとっては事件的で奇跡的な事だ。


「奇跡的な相性」

 大げさに愛莉の事を評価している私のことを、愛莉はこう例えていた。


「悠里絵って、ちょっと古い感じの、きゃしゃな美人だよね。色は凄く白いし、ちょっとキツメの顔だし、背も高い。遠い先祖はアングロサクソン系か? え? どうせなら、フランスのベルサイユにいた貴族が先祖だといいって? うーん、それは無理かな……ロシアから流刑してきた、没落貴族くらいかな?」


 褒められてるいのか、けなされているのか、私を真っ直ぐに見る愛莉の大きな瞳からは読み取れない。

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