第2章「対極性」
4月中旬土曜日の昼下がり俺は待ち合わせのため四条大橋に立っていた。その日は4月だというのに25°を超える猛暑で首にかけたカメラの重さと長袖を着てきたことに後悔していると橋の向こうから裕司と清水さんがこちらに歩いてきていた。
「お待たせ〜すぐそこで清水さんに会ってさ一緒に来たんだよ、それにしても今日は暑いね〜」
「お前こんだけ暑いのになんでそんな元気なんだよ……」
「ん?天気の良い日こそ元気が出るってものじゃないか!」
暑苦しい、横目で清水さんを見ると心なしか微笑んでいる様に見えた。俺たちはまず四条通を直進し神社で一旦各自写真を撮り1時間後に見せ合うことにした。
神社の敷地内には公園があり今はここの枝垂れ桜が美しく咲き誇っていた。初めて触るカメラに戸惑いながら何とか1枚撮ることに成功した。
その後もその桜を軸に犬や猫などの動物や空など様々な写真を撮り入り口に戻ってきた。
「さて、みんなどんな写真を撮ってきたのかな〜と」
「「「あ、」」」
「ははは、みんな1枚目はやっぱり桜撮っちゃうよね」
「まぁ綺麗だからな」
「で、湊は他にどんなのを撮ったの?」
「あぁ、俺は動物とか空とかまぁ色々だな特に縛りなんかはつけてない」
「ふ〜んなんか面白味に欠けるよねまぁ僕も同じ感じだしケチつけられないんだけどね」
「清水さんはどんな写真を撮ったの?」
俺が聞くと清水さんは恥ずかしそうにカメラを差し出した。俺はその一枚の写真になぜか心を奪われた。
俺たちの撮ったのと同じで特別何か使ったわけではなくカメラたった一台で撮ったはずなのにその写真は明らかに違った。
横で見ていた裕司は難しい顔をして口を開く。
「コイだよね?そこの池の清水さんうまく撮れてるじゃん」
「確かにうまいね後でどうやって撮ったか教えてよ」
「は、はい喜んで」
やっと心から笑ってくれた、不思議と俺も笑みが溢れる。写真を見せ合い終わった俺たちは近くにある小川で撮影するため移動を始めた。
相変わらず元気な裕司は俺と清水さんの先を行く。この状況で何も話さないのは逆に不自然なので何か話題を絞り出そうと考えていると清水さんが俺の方をじっとみていた。
「どうしたの清水さん?」
「い、いえさっき写真を褒めていただいたのでお礼をと……」
「そんなお礼だなんて、褒めたのは本当に素敵だと思ったからだからそんな気負わないでよ」
「あ、ありがとうございます」
微笑んだ彼女の笑顔は先ほどと違いまた偽物の笑顔の様に思えた。
「そういえば清水さんは何で写真部に入ろうと思ったの?」
「そ、それは写真に興味があったからです……」
「……そう」
清水さんのその言葉は何かを隠しているようにも聞こえる不思議な回答だった。そんな俺たち事となど気にせず裕司相変わらず俺たちのはるか先に立っていた。
「おーい2人ともーこっちだよー早く早く〜!」
「わかってるからちょっと待っててくれー」
しばらく歩きやっと裕司に追いつく、どんだけ歩くのが早いんだよ……
たどり着いた小川はこの暑さの元凶である太陽の光を反射させぎらぎらと輝いている。その美しさに先程まではしゃいでいた裕司や清水さんも目を輝かしていた。
「よし!じゃあ二人とも今度は3人同じ位置からとってどんな違いが出るか見比べようよ!」
「おぉいいなそれ、さすがの発想だな裕司」
「もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「褒めねーよ」
ぶーとむくれる裕司の奥で清水さんは話が聞こえないほどまだ目を輝かせていた。
「おーい清水さーん……ありゃこりゃ聞こえてないね」
「しばらく待ってあげよう」
この光景はきっと彼女の中で何か大切な光景なのだろう。
しばらくして清水さんははっと我を取り戻し辺り俺たちがいることを確認しほっとする。
「あ、あのお待たせしてすいません……」
「いや気にしなくても大丈夫だよ俺たちも小川を堪能できたし」
「よし、清水さんが戻ってきたところで早速撮ろうか」
「あ、じゃああの一本橋なんかいかがですか……?」
「お、いいねじゃみんなあそこまでダッシュだ!」
「1人でやってろ」
その一本橋と呼ばれる橋は人一人が通れるかどうかという幅しかなく正直少し怖いほどだった。
清水さんもこういうところが苦手なのか俺のパーカーをぎゅっと握り離してくれそうになかった。
「よ、よしじゃあここで撮ろう枚数1枚で撮り方や角度は自由ってことでオーケー?」
「わかった、じゃあ俺は座って撮ってみるか」
そう言って俺がしゃがもうとすると清水さんが握ったパーカーがより強く握られる。
背後の清水さんの顔を見ると真っ青な顔で必死に俺を止めようと首を振っていた。
参ったな……このままでは取れないため仕方なくたって取ることにした。
何とか撮り終わり足早に橋を渡り道路に出た、俺たちはそのまま近くのミックに行きそこで写真を見せ合うことにした。
「じゃあ今度は清水さんから写真を見せてもらおうかな」
「これは……ブレちゃってるね」
「ごめんなさい……怖くて手が震えちゃってこんなものしか撮れなくて……」
「ははは、まぁしょうがないね。じゃあ次は僕だねこの美しい写真をとくと見よ!」
そう言って出された写真はおかしい点もなければ面白い点もない何とも普通な写真だった。
「普通だな、まぁいいと思うぞ」
「そうそう普通が1番なのさ、それに僕たちみたいな超初心者はこんなものでいいのさ」
「じゃあ俺のもこんなので問題ないな、ほれ」
「ん~?これは清水さん?」
「そう綺麗な川と怯える清水さんていう対極性がおもしろいかなって……」
チラッと清水さんを見ると顔を覆い恥ずかしがっているようだった、やっぱりか……
しばらくこのままなのは気まずいので助けを求めようと裕司を見ると先程のようにむれて何かを訴えているようだった。
「あの清水さんなんかごめんね悪気があったわけじゃないんだ……あと裕司お前は何してんだ」
「いやなんかカップルみたいだなーと思ってひがんでいたんだよ」
「おいバカなこと言うな……ほら清水さんがわかりやすく耳まで真っ赤になってるじゃないか」
「あ、あのもうやめてください……」
そう言った清水さんの顔は今までの人生で見たことないほどまでに真っ赤になっていた
「なんかごめんね清水さん、ほらお前も謝れ」
「ごめんね清水さん、ということで次は何処に行こうか」
こいつは後日絞めるしかないらしい、それにまだ回る気なのか。
時計を見ると針はすでに15時を指していた。さっき外にいた時よりも気温が上がり更に熱くなった外に出るのは憂鬱だ。
「僕と清水さんはもう案出しちゃったし今度は部長らしく湊がバシッと決めてよ」
「え、俺が?そうだな……動物園なんかどうだあそこなら涼しいとこもあっただろうし」
「お、いいねじゃ早速行こう!」
こうして俺たちは動物園へと足を運ぶことになった。
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