魅せる世界の写り方

加賀谷将隆

第1章「悪い気はしない」

 皆誰しも高校生活に夢を抱いたことがあると思う、しかし現実の高校生活は夢の様にはいかず大抵は入学と同時にひどい現実を突きつけられるのが関の山だ。

 かくゆうこの俺氷所湊ひどころみなとも何か新しいワクワクを期待していたわけだがまだ何も起こらない。

 まだ入学して1週間そう簡単に何か起こる訳がないかとうんうんと1人頷く。


「何やってんのさ湊、朝っぱらから1人で頷いて傍から見れば不審者だよ?」

「ん?いや、入学1週間じゃ何にも起こらないなーって」

「まだそんなこと言ってんの?高校生活にそんな刺激はないってあおを見てたらよくわかるよ」

「蒼って……あぁお前の幼なじみの先輩か」

「うん、まぁ幼なじみってよりかは腐れ縁みたいな感じだけどそれより君は何か起こるのを待つ前にその死んだ様な顔を治すところから始めなよ」


 意気揚々と話しているこいつは行積裕司いつもりゆうじ高校に入ってできた初めてにして唯一の友達だ、裕司はいわゆる真面目君で俺と違い頭も良く生徒委員も受け持っている、その為かみんなからの人望も熱い様でこの1週間でクラスのほとんどと友達になってしまった。


「それより湊部活やる気ない?部活やればワクワクやドキドキ見つかるかもしれないよ?」

「部活か、別に悪い気はしないが何でまたお前が?」

「それが撰原えりはら先生が写真部の顧問らしいんだけど先輩が卒業しちゃって部員がいないらしいんだ、それで廃部にしたくない先生から僕のところに話が来たってこと」


 どうやら生徒委員様もなかなか大変らしい。


「ん?ちょっと待てよ仮に俺が入ったとして俺とお前以外に部員はいるのか?」

「もちろんいないよ、これから何人か声はかけるけど多分しばらくは僕と湊の2人だけだろうね」


 それは同好会では?と思いながらも俺は放課後撰原先生のところに行き入部届を出し写真部の部室に行ってみることにした、写真部の部室は本館の階段を4階まで上がり1番奥の空き教室を使っているらしい。

 トロトロと階段を上がり4階の廊下に出たすると1番奥の空き教室つまり写真部の部室前に1人の少女が立っている。

 恐る恐る俺は少女に近づき声をかける


「あの、部室に何か用ですか?」

「ひゃ!あ、もしかして写真部の部員さんですか?」

「あぁ、まぁ一応」

「あの私清水沙織しみずさおりと言います、写真部に入部希望です!」


 その少女清水さんはぷるぷると体と声を震わせながら大きな声でそう宣言した。俺は一応スマホで裕司に連絡を取り清水さんに入部の手順を伝えた。

 清水さんは礼を言って撰原先生の元へと去っていく。そんな彼女の背後を見送り俺はようやく部室に入る、空き教室のため中には机しかなく写真部らしいものは残っていない様だった。

 中はほこりだらけでとても人が活動できる様な場所ではなかったので2人が来るまで軽く掃除をして待つことにした。

 窓を開けると校舎で取り囲む様にしてある芝生が見える、そこからはチア部の練習の声や吹奏楽部の練習音が響いてくる。

 しばらくそのリズムを聴きながらモップをかけていると裕司が入ってくる。


「ヘぇ〜モップがけかまさか湊本当は写真部に入りたがってた?」

「違うここめちゃくちゃほこり溜まってんだよお前も手伝え」

「はいはい、ところで清水さん?だっけ?どんな子だった?」

「ん〜なんか静かそうで写真を撮るってよりもずっと読書してそうな感じの……あ」


 そこには清水さんが立っていた、一応裕司と清水さんにお互いの紹介をさせて掃除を再開する。

 先ほどまで清水さんの話をしていたからか無性に気まずい。手短に掃除を終わらせた俺たちは写真部としての今後の活動内容について話し合うことにした。


「よしじゃあまずは部長の任命だね、僕は生徒委員があるから正直ずっと顔を出しているわけにはいかないから現実的じゃない清水さんはどうかな?」

「私は、その、まだお二人のこと全然知らないですしあの、指示を出したりするのも苦手なのでできればお二人にお任せしたいです」

「そっか、じゃあ湊で決まりだね」

「ちょっと待て俺の承諾も無しに決めるな」

「えぇ〜だって僕も清水さんも無理なんだから君しかいないよ」


 彼女を見ると申し訳なさそうな顔でこちらをみている、これはもう抵抗できそうもない。

はぁとため息をつき俺は渋々写真部部長へと昇格したのだ。


「え〜とじゃあまず活動方針なんだけどその前に清水さんって写真撮影とかの知識ってあるの?」


 清水さんは口を開けずに首を大きく横に振る


「てことは全員初心者ってことだ……じゃあとりあえず撰原先生に活動方針について聞いてくるから2人はちょっと待っててくれ」


 そう言い残し俺は教室を後にし別棟3階の職員室に行き撰原先生に繋いでもらう。


「どうした氷所まさかもう部活辞めるとか言わないよな?」

「違いますよ、僕が部長になっちゃったんで報告とあと活動方針とか聞こうと思って」

「お前が部長……まぁ誰でもいっか、活動は好きな様にやってくれたらいいぞ」

「え?何かやるわけではなく?」

「あぁ君たちの好きにしてくれて結構!あ、廃部だけはやめてね給料減っちゃうから」

(この女そういうことか)


 色々言いたいこともあったがそれは後日しっかり話し合いをさせてもらうとして先生からカメラなど備品のありかを教えてもらったので翌日早速取りに行くことになった。

 放課後裕司が俺のところに来て手を合わせて突き出してくる。


「ごめん湊生徒委員があるからさ備品運び2人でやっといてくんない?」

「別にいいけどお前も後でこいよ?」

「わかってるってじゃあまた後で!」


 そう言って裕司は走り去っていった。

 部室に行くと俺より早く清水さんが待っていた。行こうかと人声かけ俺は清水さんと共に備品の回収に向かった。

 撰原先生に言われた通り校内の1番奥の体育館より少し手前にある物置とも倉庫とも呼べないゴミ置き場の様なところの屋根があるところに複数のカメラが置いてあった。


「これみたいだな、よし清水さんひとつ持ってくれる?他は俺持つしさ」

「え、でもそれ重いですよね私も半分持ちますよ」

「いや、大丈夫だよなんとか運べそうだし」


 前言撤回、超重いです。でも今更手伝ってなんて言いにくいし、めっちゃ心配そうに見られてる恥ずかしい。

 そんな事を考えねいる間になんとか部室へと戻ってくる。


「ふぅ、やっと着いた」

「あ、あのごめんなさいやっぱり手伝っておけば……」

「いやいや俺の方こそなんか心配かけちゃってごめんね」


 2人の気遣いが非常に気まずい空気を作り出しなかなか会話の内容が出てこない。早く裕司来ないかな〜と考えているとタイミングよく裕司が入ってきた。


「お疲れ〜ってどうしたの?何かあった?」

「いや何もなかった本当全くっていうほど」

「ふ〜んまぁいいやそれより2人とも土曜日空いてる?」

「俺は空いてるけど清水さんはどう?」


 彼女も空いているらしく大きく首を縦に振る、やっぱり喋るのが苦手なのかな……


「でもなんでだ?何かするのか?」

「うん、折角写真部なんだしさ色々回って写真の練習しようよ」

「へ〜いいなそれ何時にする?」

「ん〜昼くらいにしよう」


こうして俺たち写真部初めての活動内容が決まった。

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