AKUT

ニョロニョロニョロ太

1幕 プロローグ的な(K)

 小さい頃から、即興で歌を作るのが好きだった。

 音楽について勉強したことも無いし、ピアノを数年習った程度だけど、長く続く小さな遊び。

 だから、ソフトを使えば誰でも音楽を作れるようになったとき、自分で曲を作ってネットにあげるのは必然だった。

 ただの遊びの延長。何のメッセージもストーリーもない歌。

 それでも少しずつ、自分が作った歌を好きと言ってくれる人が。次を待ってくれる人が。尊敬してくれる人が。

 そんな人がだんだん増えていって、その界隈で一度は名前を知られる程度に膨れ上がった頃。

 手が動かなくなった。

 メロディを打ち込む手が。歌詞を書く手が。思いついたフレーズを口ずさむことでさえ、体を固められたようにできなくなった。

 歌いたいことはいっぱいあるのに、評価される目に当てられて委縮してしまう。尊敬の目を受けても変わらずにいられるほど、自分のメンタルは強くなかった。

 それでも待ってくれている人がいるからと、固まった体を砕く思いで、投稿し続けた。

 その虚構は、吹けば飛ぶほど、とんでもなくもろくって。

 たった1つの「前の方がよかった」というコメントで、いとも簡単に崩れ落ちた。

 その時から、目の前の景色が変わった。

 楽曲を投稿した瞬間、非難の弾幕が画面を埋め尽くしたように見えたり、外を歩くと周りの人間が全員自分を指さして嘲笑してるようにしか思えなくなったり。

 要はその時から、俺は幻覚症状に陥った。




 俺には3人の親友がいる。

 名前はユーミ、エータ、トーヤ。

 特にユーミとエータは、小さい頃からずっと一緒にいた。よくある、お互いが想い人でお互いが恋のライバルになったことがあるような幼馴染だ。

 ユーミとは、幼稚園の時からの付き合いで、一緒に曲を上げている。

 彼女は生まれつき人数不一致症で、人数を正しく判断できない。物を数えられないという訳ではないのに、人だけが数えられなくて、昔から苦労していた。

 エータは、小学生の時にユーミがきっかけで出会った。

 運動も勉強も何だって出来る、一見完璧な子。

 彼には生まれつき、身体的にも、精神的にも、性別がない。今は俺とユーミに合わせて、女子高生として生きている。

 トーヤは、いつの間にかそこにいた。

 影と幸が薄い、優しい子。俺たちの中で一番かわいらしい子だと思う。

 ただ、両親がいわゆる毒親で、度々何も言わずに突然いなくなる。影が薄いのと相まって、本当にいつの間にか、いなくなる瞬間に気づけない。

 3人とも、普通じゃない。

 だからと言って、俺も普通だった訳でもない。

 それでも世の中は普通じゃないと受け入れてくれないから。

 友達よりも長く一緒にいて、家族よりも信頼しあってて、恋人よりも依存して。

 固まって小さくなって普通のふりして、生きてた。

 そうだ、俺の紹介をしてなかった。

 俺の名前はケーコ。幻覚持ち。

 ユーミとエータとトーヤと同じJK。

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