第3話 愛し子よ

「ただいま、莉乃りの

「あっ、みおおかえり!」

 部屋に戻ると、莉乃が満面の笑みで迎えてくれる。これが最近の私と莉乃の日常。もちろん、莉乃だって大学があるときは大学にも行っているけれど、それは私と一緒。

 たぶんそれ以外で莉乃が外に出ることはない。それでいい、そうじゃなきゃ駄目。


 数日かけて、しっかり言い聞かせた――外は危ないのだ、と。そして莉乃に手を出してきたやつらを突き止めて、莉乃にしっかり謝らせた。

 彼らは結局莉乃がほしかったんじゃなくて、誰でもいいから自分に都合よくなりそうながほしかっただけなんだということも、しっかり見せてあげた。莉乃は泣いて目を瞑りたがったけど、そんなのは許さずに、最後まで見届けさせた。そのときも泣きながら私に抱きついてきたっけ。

 それから、彼らにされたこと全部話してもらって、全部そのまま、私で塗り替えた、、、、、。性別が違うくらいで莉乃を奪うなんて許せない、莉乃のことをわかってるのは私だし、彼女を守れるのも私、清らかなままで愛せるのだって、きっと私なんだ。

『これでもう外に出る必要ないでしょ?』

『…………』

 全部終わった日、頷く気力もないくらい放心している莉乃にそっとキスした唇が、まだ熱い。血の通っていないものを使うなんて嫌だったけど、完全に塗り替えるには仕方なかった――そう思わないと、あまりにも苦しいから。


 いろんなことを、全部ここで満たしてしまえばいい。寂しいのがつらいなら、寂しいと感じる暇なんてないくらいに愛を注げばいい。

 だからその為に、上気した顔で近付いてくる莉乃と視線を合わせて、確認をする。

「今日も外に出なかった?」

「うん」

「インターホンにも出なかった?」

「え、」

「インターホンも危ないって言ったよね。もしかしたらあいつらが宅配便とかに変装して来るかもしれない、って」

「……あ、……うん、」

「出たの?」

「う、」

「出たの?」


 少し強く訊くと、莉乃は気まずそうに頷いた。けど、もう泣きそうな顔になっている。そう、約束事をひとつでも忘れてしまったら、ペナルティがあるって伝えてあるから、きっと怯えているに違いない。本当なら正直に伝えられたことを褒めたいけど……仕方ない。


「じゃあ、また明後日ね?」

「え、やっ、やだ、やめてよ澪、」

「大丈夫だよ、私もつらいから」


 首を振って嫌がっても、使っていないクローゼットに連れていこうとする私から逃げようとはしない。そんなことをしたら足腰立たなくされるってわかってるからだろう、胸は痛いけど、これも莉乃と私の日々を守るためだから。

 怖いんだよね、寂しくなるし、時間もわからなくなる……わかるけど、仕方ないんだよ。

 クローゼットの扉を閉めて、外からテープで留める。これで、明後日までは莉乃と会えなくなるし、聞こえる嗚咽が胸を傷つけていく。


「明後日になったら、会おうね」


 莉乃に告げる声が思わず涙ぐんでしまうけど、少しの辛抱だから、莉乃を恐ろしい外から離すためだから……!

 必死に言い聞かせて、気持ちを入れ換えたくて顔を洗う。顔をあげたとき、鏡の中の私は。


  * * * * * * *


 また、夢を見た。

 翼をもがれた小鳥は、とても大人しく私の手の中にいる。時折私を哀れむように小さく鳴きながら、小さくその身を震わせていた。

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傷だらけの翼にキスを 遊月奈喩多 @vAN1-SHing

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