第2話

「……は? もしかしてそれを聞くためだけに私と祐希の時間を奪ったの? 」

「それだけって言う内容じゃないけどな……」


 その程度のことなら祐希のそばで祐希を守っていたかった。目の前のパフェがどんどん減っていく。レーフラってば幸せそうな顔しちゃって。私は幸せどころじゃないのに。


「あ、あれだ。この辺の代表死んだらしいぞ」


 最後に残ったクリームを掻き込みながらレーフラは言った。私は機嫌悪くてフレンチトーストをあんまり食べれてないのに失礼だと思わないのかしらね。


「あのおじいね。人間にしてはかなりの年だったのに私たちを殺すために頑張ってたものね。殺されたの? 」

「寝ぼけて階段から落ちたって噂してた」


 アホね。代表が死んだってことはたぶん肉親に継がれたってことね。そんな死因なのに「親父の敵ィ! 」とか言われてきたら困るんだけど、来るんでしょうね。めんどくさい、祐希といたい。


「ブルーナ、どうしてここにつれてきたと思う? 」

「知らないわよ。ここにしてって言ったの私だし私と祐希のことを嫉妬して邪魔したかったとか? 」

「まさか。元からここにするつもりだったし、死神会が名前を変えたからだ」

「名前……。あの長ったらしい『魔術に精通するもの壊滅させ隊』ってやつね。元からネーミングセンスなかったけれどまだ死神会の方がマシだったわね」


 ここ2ヶ月くらい全く音沙汰がないと思ったら名前変えてるわ代表死んでるわであっちはさんざんらしいわね。殺されるかもしれないとはいえ、かわいそうに思えてくるわ。

 アイスが完全にメロンソーダに溶けてしまったクリームソーダのストローを回すとカラカラと涼しそうな音が聞こえてくる。フレンチトーストはもう冷めてしまった。

 襲うなら早くしてくれないかしら。お腹を空かせてフレンチトーストを食べたいわ。


「まあこっちは呼び慣れた死神会って呼ぶんだけどな」

「それがいいと思う───」


ガシャンッ


 まったく、誰よ。私の言葉を邪魔したクズは。

 私の言葉を遮ってまで襲ってくるなんて、新しい代表はよっぽどバカらしいわね。殺してやろうかしら。


「もしもしお邪魔しまーす。我々は『魔術に精通するもの壊滅させ隊』です。ここに魔法少女がいるのはわかっている。抵抗するなら人間も殺すからヨロシク」

「「ウワー、ダサ」」


 盛大に窓を割って入ってきたのに入ってきたのは私より少し大きくてレーフラよりも小さい少年だった。その少年仮面舞踏会風の仮面を付けて軽いノリで店員に話しかけていさはた。ファッションセンスが皆無すぎてついレーフラと声を合わせて言ってしまうとはね。


「ダサくねーもん。……あ、魔法少女いた」

「あ、やべ。できれば厄介事を起こさないで終わってほしかった」

「レーフラの声が大きいからよ。まさかピンポイントでここに来るとはね」


 まだフレンチトースト食べ始めてもないのにうるさい連中ね。この私の食事を邪魔するなんてクズの分際で……。いいわ、あっちが何かする前にこっちが殺してあげるしかなさそうね。

 私はレーフラが動く前に立ち上がった。


「あ? やるのか魔法少女。俺は爺様の後を継いで代表になった『S』だ」

「「やっぱダサ」」


 またレーフラと言うことが被った。常識的に考えれば『S』なんてとてもとてもダサいと気づくと思うけどそんなことにも気がつかないほどバカなのかしら。

 気づくとレーフラの赤い髪が私の横まで来ていた。相変わらず真っ直ぐで綺麗な色してるわね。私も癖がなければおろしてていいのかもだけど。


「やっぱり見た目と言葉遣いを一致させた方がいいと思うわ」

「どっちに合わせろと? 」


 魔法少女としての服装だから仕方ないのだけど私が今着ている服は相当動きづらい。こんなフランス人形みたいな服を着ていなければならないなんて魔法少女の間は面倒ね。

 魔法使いの親から聞いたのだけど人間と過ごしている間はこの服を着ていなければ魔法を使えないらしい。案外可愛い服だからいいけど、姿が変わるのはよくわからないわ。この姿じゃ祐希も私だってわからないんじゃないのかしら。


「姿に言葉遣いを」

「知ってたけどやだね」

「……俺のこと見えてるのか? 」

「「あ、忘れてた」」


 レーフラの格好を気にしすぎてあのクズの存在忘れてた。さて、食事の時間を奪った罪は命で払ってもらいましょうか。


「攻撃系の魔法を使うわけでもない魔法少女が俺らを怒らせて勝てるとでも思ってるのか? 」

「レーフラには無理だけど私なら簡単よ」

「確かに勝てはしないけどさ、私だって負けはしねぇよ? ブルーナだって勝てるかはわからないだろ? 」

「私は勝てるわ。見てなさい」


 勝てると言ったからには少し本気を見せないとね。パチンと指を鳴らせば対象を私の世界に引き込める。もう一度指を鳴らせば私の頭の中にある幻を召喚できる。

 召喚と言っても私の世界にいる人にしか見えない。他の人が見たら何もない。その隙に人間離れした筋力を持つ私たちで腹でも殴ってしまえば普通の人間ならもう立てないわ。


「『S』と言ったわね。面白いものを見せてあげるわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る