魔法少女の恋人

影山美桜

幻の魔法少女

第1話

 この世の中に魔法少女がいるってことはみんな知ってるわよね! もちろん。

 そして私はそんな魔法少女の一人で『青月ブルーナ』。人間での名前は『青木あおきるな』月って書いて『るな』って読むのがポイントね!

 私は魔法少女だからもちろん魔法が使えるわ。と言っても、たったひとつだけ、一人前の魔法使いになるまではこれを極めなければならないの。でも私の魔法は強いからこれだけで弱い魔法使いくらい殺せる。


『幻を見せる魔法』


 これさえあれば私は誰にも負けない。他の魔法少女だって敵じゃない。


 魔法少女について説明してなかったわね。成人した魔法使いが人間の世界のその年に生まれた赤ん坊を一人選んで魔法の力を与える。もちろん、親御さんには許可をとってからだけどね。

 その赤ん坊は12才までは人間として普通に暮らすけれどそれ以降は人間と暮らしながら魔法使いになるために訓練をする。魔法の調整だったり、魔法少女同士で戦ってみたり、魔術に精通するもの壊滅させ隊の手からどうにか逃げたり。それでも普通の人間とあまり変わらないわ。

 人間として成人するとき、私たち魔法少女は人間ではなくなる。与えられた魔法の力が大きくなり、時の流れが変わる。しかし、そのときに一人前の魔法使いになれるかどうかはわからない。自分の魔法を極めれば永遠にも近い寿命を持つ魔法使いとして力を与えてくれた親の元で魔法使いの成人を待つ。それができなければ300年ほどの寿命を持った中途半端な魔法少女としてしか生きられない。

 私は半端者になんてなりたくないの。いくら魔術に精通するもの壊滅させ隊がいても人間から見て魔法少女や魔法使いが忌み嫌われる存在でも私は構わない。そんな私も含めて愛してくれる彼がいるから。


「月、ここにいたのか」

祐希ゆうき。遅かったわね、あんまり遅いから死んじゃったかと思ったわ」


 私は愛してくれる祐希を愛する。例え私より先に死んでしまうとしても魔法使いになったら会えなくなるとしてもそれまでの短い期間でも愛したい。そう思える唯一の人間だから。


「月はバカだなぁ、そう簡単には死なねぇよ」

「あら? 人間は脆いものだと習ったわ」

「ちょっと前までお前も人間だったくせに」


 今は14才。魔法少女になってからたった2年しか経っていない。なのに充分強い。私は魔法使いの親からほぼ間違いなく魔法使いになれるときいている。だからこそ余裕。このブルーナ、誰よりも素晴らしい魔法使いになって魔術に精通するもの壊滅させ隊を全員殺さなければならない。魔法使いの親の親がそいつらに殺されたから。何も悪いことをしていなかったのに。

 だから私は壊滅させ隊を壊滅させたい。……何て冗談みたいなことを言ってみたりもするけど、私は本気。現に私も何度か命を狙われてる。壊滅させ隊じゃなくて抹殺し隊に改名でもした方がいいと思うわ。


「おい月ー? そんな険しい顔して黙り込んでどうしたんだ? 」

「え、そんな顔してた? 暴発しないようにしないと」

「心配するとこそこかよ! ぶつからないように前見て歩けよ」


 あの隊のことを考えてたら怖い顔をしてたみたい。祐希に心配をかけてしまったわ。心配はかけたくない。私が殺されない限りはね。


「ブルーナ」


 まったく、誰よ。いきなり上空から話しかけてくるなんて失礼じゃないの。私と祐希の幸せな時間を邪魔する魔法少女は……。


赤花レーフラじゃない。久しぶりね、私は忙しいからまた後日」


 知り合いだった。というか、親同士が仲良いからよく模擬戦闘をしたりする同い年の魔法少女。彼女の『植物の声を聞く魔法』はかなり厄介。植物には幻が見えないのも多いから魔法が通用しない。レーフラとの戦いは魔法少女なのに物理になる。筋肉痛必至。


「おい待てコラ」

「明日は祐希とデートなの。今日模擬戦闘なんてしたらデートできないでしょ? お断りよ」

「ちげぇって、とにかく聞け」


 ほんと言葉遣いが悪いんだから。私のように丁寧な言葉を使えばいいのに、女の子なんだから。


「そこの喫茶店で貴女の奢り、祐希も一緒でいいなら聞くわ」


 何故か怒りそうになったレーフラは肩掛けの鞄からフリルのついたがま口財布を取りだし、中身を見てから降りてきた。私たちの手を引きながら喫茶店につれていったと言うことは、なんとか持ち合わせがあったようね。

  魔法少女と言っても財力は普通の14才の人間とほとんど変わらない。よく月末に三人ぶん払うだけあったわねと感心できる。


「俺はいいよ。月も明日デートなんだから仕事なら早く終わらせた方がいいだろ? 」

「……祐希ぃ。そうね、そうするわ。明日絶対だからね」


 祐希は私の頭を撫でながらハイハイと返事をして帰っていった。祐希は誰にでも優しいし、かっこいいし、勉強できてスポーツもできるほんと非の打ち所がない人よ。あんな人が私を愛してくれるなんてほんとに幸せね。


「ブルーナ、着替えたらどう? 」

「言われなくてもそのつもりよ。でーも、喫茶店は変えないわよ」

「クリームソーダでいいか」

「フレンチトーストもね」


 お気に入りの喫茶店に入っていつも通りの注文を店員に伝える。しばらくすると私たちのテーブルに私が頼んだクリームソーダとフレンチトースト、レーフラが頼んだコーヒーと巨大パフェが並べられる。

 レーフラがコーヒーに角砂糖とミルクをたっぷりいれれば本題開始の合図。魔法少女としての格好をしていてもここにはよく来るからあまりヒソヒソとされない。居心地がいい場所よ。


死神会魔術に精通するもの壊滅させ隊が今日この辺を襲うって話らしい。ブルーナ聞いたか? 」

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