第3話 小さな決意
秋人のとりあえずの目標が決まった。この世界で自分のできることをやる、そしてこの世界を救うまではしなくても、そこに繋がる道筋がわかればいい。
でもそれって難しいよなー。この世界の人たちがわからなかったことを俺が解決?あれ、なんで俺なんだっけ?……あ、そうそう、ここの官僚たちが原因が俺の世界にあるのでは、と言ったらしいな。この世界と俺の世界は繋がってるか……。
レイラとの話が一段落ついたため、食事が用意された。
「お口に合うかわからないけれど、たくさん用意させたから好きなだけどうぞ」
と豪華な食事がテーブルに並べられる。秋人は目を輝かせながら見ている。
「めちゃ美味しそうですね!これ、食べていいんですか?」
秋人はお腹がすいてたらしい。難しい話をしたのもあるのか?
レイラに聞くと、笑いながらどうぞと返される。秋人はいただきますと手を合わせながら小さく言う。秋人が料理を一口食べたのを見てから、レイラも食事を始める。
味は美味しいけどナイフとフォークが使いにくいな……。ちゃんと習っとけば良かった。いや、習うにしてもそんな店に連れていってもらったことないしな。レイラさんはさすがに綺麗に使うよな。
視線に気づいたのか、レイラから
「マナーは気にしなくていいですよ。マナーというのは、人が不快にならなければいいのです」
秋人はそれが難しいんだよなと思いつつ、頑張って食べているよう。
お腹の減りが落ち着いたところで、秋人から
「そういえば質問したいことが。レイラさん……でいいですか?レイラさんはレイラさんでクロタキミントさんは日本人っぽい名前ですね」
レイラはナイフとフォークを置き、質問に答える。
「はい、レイラと呼んでくださってもいいですよ。……と思いましたが、ミントが睨んでいるのでやめた方がいいですね」
ミントの視線が怖い。
「この国は多民族国家なのです。あなたの住む日本という国は、この世界では名前が違いますが似たような国が存在しています。その周辺もたくさんの国がありますがすべて〈東洋〉と呼ばれていますね。私の母も東洋の人ですよ」
秋人は頷きながら聞いている。そして
「レイラさんは俺……僕の世界に詳しそうですね。あと、レイラさんは名字、えとラストネームはないんですか?」
レイラは少し笑いながら
「もう俺でもいいですよ。その方が話しやすいでしょう?……私は詳しくはないです。興味があったので、詳しい者に聞きました。ラストネームのことですが、私は王族なのでラストネームはありません」
秋人はありがとうございますと会釈する。慣れとは怖いものである。就活のときに大丈夫かと思うがそれはまた別の話。
「そういえば俺と同じ顔の人もいるんですよね?どんな人か興味あります」
そう言うとレイラは、秋人と会って初めてしゅんとしたような顔を見せた。秋人は何か変なことを言ったのかと心配になる。しかしレイラは決心したように話し出す。
「その方は騎士で……現在は療養中です。私が軽率な行動をしたために大きな傷を負いました。あなたもそのときに存在が消えそうだったのです。私はその方を兄のように慕っていました。だから自分が許せなくて……でもその方は守るのが自分の役目だと言ってくださったのです。……あなたをこちらに呼んだのは、その方が自分の代わりに私を守ってくれるようにと」
秋人はなるほど、そういうことかと納得した顔をして、
「同じ顔というだけじゃなくて、そういうことだったんですね。……その方は使命感、責任感が強い方なんですね。俺と全然性格が違うと思います……。俺、ちょっと不安になってきました。……けど、やるって言っちゃったし、やっぱりやめますって言うのもカッコ悪いし。でもレイラさんを守れるかはちょっと……いや、できないかも……」
最後は消え入りそうな声になる。すると、ミントが話に入り
「心配はいらないです。レイラ様を守るのは私たちの役目です。私はただのメイドですが、王族特務部隊という王族を護衛する部隊が存在するので、本来ならその人たちの役目です」
「私のことは二の次でいいのです。あなたにはこの世界を救ってもらいたいから。それにミントも頼りになるのですよ。元々は騎士だったそうです」
なんか混乱してきたけど、俺と同じ顔の奴、やべーな。カッコいいじゃん。レイラさんを守るか……レイラさんを守って、この世界も救ってとかできるはずがない。そもそも、俺にできることなんてあるのか?……とりあえず死なないようにしないとな。こっちの俺が消えるってことだよな?
「……とりあえず、なんか頑張ります」
秋人の決意?は2人に伝わったよう。その後は和やかに食事を終える。
「今日は疲れたでしょう。明日はこの周辺を案内するので早めに休んでください」
ミントに部屋に案内され、
「今日はこちらの部屋を使ってください」
秋人は部屋を見渡し、その広さに感動している。
「広いですね!さすが王族の客室」
すかさずミントから
「言い忘れてましたが、ここは王族領じゃありません。貴族領です。王族領は王族と王族特務、使用人しか入れないので、あなたを招くと聞いてとある方のお屋敷を使わせてもらってるのです。明日、その方に会えるはずです」
秋人はもう、ふーんとしか思わなくなっていた。考えたらきりがない。
「そういえばクロタキミントさんのことは何て呼んだらいいですか?」
「ク ロ タ キと呼んでください」
あ、これ、ミントって呼んだら怖いパターンだ……。可愛い名前なのにな。
「わかりました……、クロタキさん。あ、今日はありがとうございました」
ミントは少し驚いた顔をした。礼を言われたことに対してか。
「い、いえ。それではおやすみなさいませ」
会釈して去っていった。
あ、お礼言われるの苦手なのかな?そういえばミントさん、じゃなくてクロタキさんは元騎士なんだ。魔物と戦っていたのかな。でも今はメイドなんだ?なんでだろう?……やめた。考えたらきりがない。
そういえば現実世界は今、どうなってるんだろ?時間はこっちと同じように流れてる?あのとき、池の近くに行って……何かに引っ張られて溺れて死ぬかと思ったんだ。あれでこっちに来たんだよな。もう少しやりようがなかったのか……死ぬかと思ったぞ。……まぁ、考えてもしょうがないし。寝るしかないな。おやすみー。
現実世界では秋人の荷物が池に浮かんでいた。家族は秋人が帰らないことに心配していたが、20歳を超えた男のため、2日連絡がつかなければ警察に届けることにしたようである。しかし翌朝、池の周辺に住んでいる人が秋人の荷物を発見し、通報した。警察が池やその付近を捜索するが、見つからない。行方不明者となった。
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