愚か者が挑むは
「あはははははははははっ」
神は高笑いする。
「本当に大馬鹿者らしいな。先まで魔王の策略に踊らされたがここに来て運が回ってきたようだ」
神は俺に手をかざす。
なんだこれ! 体が動かないっ
「世界自身と融合してしまえば我は未来永劫神の座についていられる!」
ジャスティスが剣で神に斬りかかる。
しかしどういうわけか斬撃が神の身体をすり抜けた。
「なっ…」
「無駄だ!すでに融合は始まっている!残念だったな!!」
俺の体が光の粒子を放ち始め、半透明になっていく。
「ほんとにすまねえ、ジャスティス」
「…それで謝った気ですか」
「ああ、謝ってばかりじゃどうにもなんないだろ?だから俺はお前を信じることにした」
「支離滅裂です。まったく貴方は…」
「『馬鹿』なんだろ?それがどうした。お前をこんなところに一人ぼっちにさせておくぐらいなら俺は世界一の馬鹿にでもなってやる!」
「………」
「はは………」
まずい。意識が……
「……まだ…」
これは俺の声じゃない。けれど聞いたことある声。
その時、俺の視界が高速で移動する。気づいたときには角の生えた少女に抱えられていた。
「間に合った……」
「セントウ!?」
「…わたし…あなたの器……あなたを簡単に引き寄せられる……」
「いや、そうじゃなくて、どうしてここに!?」
「………わたしだけじゃない……」
後ろを振り向くと巨大な6つの翼が浮遊していた。それぞれ赤、白、紫、青、緑、黄と色が異なっていた。
「凄い…精霊が顕現している……しかも6体同時に……」
トータルさんが驚嘆の声をあげる。
あれが精霊なのか。巨大すぎて視界に収まらない。
「…連れてきてくれた……」
味方をしてくれるのか?相手は神だっていうのに。
「きっとマサヨシさんがみんなを信じてくれたからですよ!」
アルが確信満ちたように言う。いつの間にかみんながこちらに駆け寄ってくれたようだ。
「…こうなっては貴方に託すしかありませんね」
「ジャスティス……」
「私はさらに貴方に呆れました。尻ぬぐいは自分でしてください」
ジャスティスは俺に剣を雑に放り投げる。
『ちょっとなにすんのよ!世界一の聖剣に!!』
「うおっ!?ソードか!?」
頭にソードの声が流れ込んできた。
『許さないわ!よっぽど死にたいようね!何分割にされたいかしら!!』
「マサヨシ様、使い方は基本的に魔法と同じです。イメージが大事です」
『ちょっと聞きなさいよ!』
ソードがわめきたてるがジャスティスは何も聞こえていないように無視をする。仲いいなお前ら。
俺は立ち上がろうとするが、足がふらつく。力が入らない。カオルに支えられてようやく立ち上がる。
「大丈夫?」
「ああ…なんでこんな…」
神の方を向く。彼は俺の姿ではなくなっていた。それは光を放つ玉だった。
「邪魔が入ったがほとんど融合出来たぞ!これほどの力があれば十分!貴様らまとめて消し去ってやろう!!」
光はさらに強くなる。するとカオルが急に魔法壁を張る。その直後、爆風が俺たちを襲った。
「神はウチらを力の放出で消滅させる気みたいだね」
「そんな!どうすれば!」
「手はあります。完全な力の放出までは時間がかかるようなので」
皆はジャスティスの言葉に反応する。
「教えてくれ。その手段とやらを」
「神はマサヨシ様という世界の概念をエネルギーに変換して姿を覆っています。つまりエネルギーを分散させて姿が露出したところにソードの一撃を入れることが出来れば、神を討つことが出来るでしょう」
「エネルギーを分散させるだと?どうやるんだ?」
「…それは……」
ジャスティスが考え込む。そこはまだ考えていなかったらしい。数秒の沈黙が流れる。
するとトータルさんが言葉を発する。
「ウチがエネルギーを吸収するよっ。もう真っ白だからいっぱい入るよ。そうすれば…」
「無茶だ!あんなエネルギー量!パンクする!確実に死にますよ!!」
カオルがトータルさんの提案を食い気味に反対する。カオルもその案があることに気が付いたのだろう。
「そ、そんなのだめですよ!他の方法を…」
「マサヨシ君、心配しないで。ウチは人間じゃないの。それにウチはもういろんなものを生み出してきた。そしてウチが救った人たちは必ず遺志を継いでくれる。それさえ残り続ければウチも存在し続けるの」
「それでいいんですか……」
「うんっ、いいの」
「………」
「さてっ、まだ課題があるよ。うち一人じゃ神のところまでいけないんだけどぉ」
トータルさんは話題を変える。トータルさんがいなくなってしまうのは悲しいが、本人が提案したことだ。これ以上は黙って聞き入れよう。
「わ、私が連れていきます!」
アルが元気よく手をあげる。その顔には決意が込められている。
「私はもう私だけじゃないので!」
「ど、どういうこと?」
『我らもいるということだ』
後ろから轟音が響く。巨大なものが落下したようだ。そこには巨大ムカデとハンマーを背負った鉄人形、そしてそれよりもはるかにでかい狼がいた。
「生きていたの!?」
なぜか事情を知ってそうなアルが驚く。
『呼ばれてしまったのだ。世界の意思に。そして神の世界の魔力にあてられ再び降臨した』
死の計約…こいつらも味方なのか?怪しい。
「なにそれ~わたしが言ってたのはこっちのことだったのに」
むくれたアルの背中から黒い翼が一気に生え、羽根が数枚飛び散る。
『ほう…アストラエルと魂を融け合わせたか。奴はつくづく変わっている』
もういきさつを聞いている暇はない。彼らは光を発する神を見据える。
『成程。あれに近づけばよいのだな』
「そうです。お願いします」
『陛下のお望みとあらば』
そうかジャスティスは今は魔王だから彼らはジャスティスの手下なのか。それなら心配はなさそうだ。
「よーし、行きますよ~」
アルが軽々とトータルさんを担ぎ上げる。トータルさんは「よろしくねっ」と軽い返事をする。
するとさっそくアルと死の計約たちは魔法壁の外に飛び出し光の玉に向かっていく。
「無駄なことを……」
光の玉は膨張して、光と共に黒い矢を無数に放ってくる。そしてカオルが張っている魔法壁にも一瞬で数百本と突き刺ささった。
「んなもん効くかあぁぁぁ!!」
『我々を舐め過ぎているぞ。前魔王よ』
彼らは神の攻撃に屈することなく突進する。アルは襲い掛かる矢を食らうもすぐに傷が塞がっている。サンダトーンは鎧が黒く変色して矢を弾き返している。アカラは体をくねらせて矢を避けている。一本も被弾していない。ガルは念力でも使えるのか彼に向かってくる矢はひとりでに軌道を変えて当たらない。
「マサヨシ様はターゲットのロックオンに集中してください。カオルさんの魔法壁が壊れるのも時間の問題です」
「分かった」
「あなたの想定以上に耐えてみせますよ、ジャスティス様」
「……頑張って………」
セントウが後ろから話しかける。
「そういえばさっきはありがとな。お前がいなかったらどうなっていたことか」
「……うん…………」
「……」
「……あの…」
「…なんだ?」
「…ドラゴンの感覚…まだ残っているの……あの時ドラゴンは消滅したけれど…また生まれる…ドラゴンはそういう存在……」
「……」
「…私……どうすれば………」
「よかったじゃねえか!」
「え?」
「今度はお前がドラゴンを好きになっちぃまえ!仕返しできるぞ!」
セントウは眼を見開く。まるで何かとんでもないものを見てしまったかのような顔。
そしてゆっくりと微笑む
「…うん……」
俺は微笑み返して光の玉の方に向き直る。
そこに集中して意識を飛ばすと何やら光の玉に引き寄せられような感覚がしてくる。この感覚がもっと強くなれば神を斬れるのか。
中腰になり剣をかまえる。そしてさらに意識を集中させる。
「神の姿が見えたらすぐに斬ってください。タイミングが重要です。二度はありません」
「ああ」
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