なんで

ただひたすらに無の空間が広がっている




 何も見えない 感じない




 ………




 俺は誰だ?






 _____________






『よかったわね、計画通りにいって』




「ソード様は嬉しくないのですか?今から神を斬れるのですよ」




『そりゃ、嬉しくないわけないわ。剣として最大の誇りよ。でもね、私だって斬りたくないものはあるのよ』




「……さっきのことを気にしているのですか。申し訳ございません。どうしても不意を突かなければいけなかったので」




『あっそ!』




「………」




『なによ、言いたいことがあるなら言いなさいよ』




「いえ、どうしてソード様は神の世界ではなくあの世界に存在していたのかと思いまして。貴方は『選択の剣』。本来は実行する側の存在でしょうに」




『どうでもいいわよそんなこと、私は斬りたいものを斬るだけよ。場所なんて関係ないじゃない』




「…なるほど、そういうことですか』




『……?』








「っ!!」




『ふふ、いよいよね』




「……くる…」






 ____________






 ジャスティスは俺を何て言ったんだっけ…




 ………




 そうだ、馬鹿だと言ったんだ






 でもここにはもう俺を「馬鹿」と言ってくれる人はいない




 当たり前だ 死んだんだから




 もう希望もない 希望を抱いたとしても意味はない




 当たり前だ 死んだんだから






 俺はここで漂っていれば満足するのか?もうあのカーテンを閉め切ったアパートの部屋に帰れないじゃないか 




 あそこは唯一の俺の領土だった 何でもできた どんな恥行も他人には見られない 最高の場所だった




 直にここもそんな風になるのか?




 オナニーし放題じゃないか やったぜ






 …………




 でも虚しい 誰か一人でも話がしたい バイト先のいつも仕事を押し付けてくるウザい禿げの先輩でもいいから誰かと喋りたい




 そう思えば他人は実はそんなに怖くなくて むしろ求めたくなるもんなんだな




 死んだ後に気づいても意味ないが






 あーあ、これで終わりか もう怖くもなんともなくなってきた




 もうやめだやめ




 どうせ現世に大切な人がいるわけじゃねーし 親だって数年会わなかったら情も薄れるもんだ






 未練はない






 ………




 …………………………




 ………………………………………………






「本当に?」




 アルティメット?なんでここに……






「僕たちは君自身なんだ。君が存在しているということはまだ僕たちもいるってことさ」




 カオル…






「矛盾が生じているよね。この世界は滅亡したはずなのに」




 トータルさん…




「世界は滅んだというより、限りなくゼロに収束したんだ。つまり完全に消えたわけじゃない」




「マサヨシさん、まだやるべきことがあるはずです」




 …何もないよ…だってジャスティスにそう言われたんだ…






「じゃあさ、そのジャスティスちゃんに何て言われたの?」






「馬鹿」と言われた






「じゃあ君は何になりたかったの?」






 なんだっけ…




 俺はこの世界で何を決意したんだっけ




「そう、君はどうしてあの時魔獣に立ち向かっていったの?」






 あの時…






 ………






「そうか!」




 俺は馬鹿になってやるって決めたんだ






 ジャスティスはそれを感じ取ったんだ




 まだあいつは俺に絶望なんかしてない!






 きっとそうだ 多分…






「ほんとのところは分からないですよね」




「けれどその為に僕たちがいる。僕たちは君自身でもあるけれど他人でもあるんだ。だって僕たちは君の周囲の人間や環境によって生まれた経験の集合体」






 …なんだこれ 手のひらが何かに触れている




 これは…    壁?






「うちらを信じて。自分の中の他人をちゃんと見つめて。そうすれば……」






 俺は壁を思いっきり押す。




「……くっ…うぅ……はああああぁぁぁぁぁ!!!」




 トータルさん、カオル、アルティメットも俺のそばに寄り、一緒に壁を押し始める




 壁に亀裂が走る。




「「「殻を、壊せる」」」






 ピシッ……  ピキッ……  バキィッ!




「ジャスティス!お前は俺なんだろ!!」




「だったら同じだ!!」






「お前も馬鹿野郎だぁぁ!!!」








 ――――ィィィィィィィィイイイン!!!






 壁が消し飛ぶ。目に飛び込んできたのはただひたすらに広がる青空。下はガラスのような真っ平らな地面が青空を映し出している。




 そしてそこにいたのは




「ジャスティス!」




 純白の剣を持った彼女がそこにいた。そしてもう一人。




「お前か。よもやここに来るとは」




 俺の姿をした神がいた。






「なんでここに来たんですか……」




 ジャスティスは俺を睨みつける。眉間にしわを寄せ、獣が威嚇するように白い歯を見せている。






「なんで」




「……なんで…」




「……………答えろ……」






「答えろ!!マサヨシ!!!」






 俺は頭をかく。






「馬鹿だからさ」














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る