開門
じゃあ…なんだよ…俺が世界を救ってやるって躍起になっていたのは全部独り芝居だったのか。
………
…………
残り10分。何も考えられない。
「貴方は保険でした。私が死んだ時、貴方に記憶を引き継ぐように意識のない3年の間に魔法をかけておきました。しかし私はここまでたどり着きました。つまり貴方はもう用済みです」
…お前が神になっても俺はすでに死んでいるんだぞ!!
「……」
ジャスティスは口元を歪ませる。
「な、なんだよ…」
俺に歩み寄り、呆然としている俺の顔に剣先を突き付ける。
「……貴方の……」
「…は?」
「貴方のせいなんですよ!!いつまでたっても私を一人にして!!」
「挙句の果てには自殺ですってぇ?あんまりです!」
ジャスティスが激昂する。
「人に踊らされて!薬に踊らされて!そして自分に踊らされる!すべては貴方が何もしてこなかったからです!!」
パァンッ!!
ジャスティスは俺の頬を剣の腹ではたく。俺は衝撃で横に飛ばされる。
「ぐっ…」
さらにうずくまる俺を剣で叩きつけてくる。
「貴方の犯した罪の後始末は私がつけますっ!」
「私が神となり!!」
「この世界を作り替え!!」
「無邪気な世界で貴方は永遠に平穏を謳歌するのです!!!」
そう叫んだところで俺への暴行は止んだ。
「…っ……はぁ…はぁ……」
「……カオルが何者かわかりますか…」
「彼は貴方の理想像です。単純に美麗なルックスと巨大な力を持ち、悪には冷徹で好戦的、人々に不必要な同調はしない。そして自分に理解ある者は自然と集まってくる。そんな理想を貴方は思い描いていました」
「しかし、10年前を機にカオルは変わってしまった。変わり果てた彼を見て絶望しましたよ。貴方は理想すらも捨ててしまったのです」
「そんな貴方にもう希望なんてない」
………残り8分…
…俺に何ができる……分からない……ただ時間だけが過ぎていく……
………残り4分…
…何かあるはずだ…何か…
…誰のために?
自分のために?
ジャスティスのために?
世界のために?
いや、俺はジャスティスだ。ジャスティスは世界だ。世界は俺だ。
じゃあ俺はなんだ?俺は何をすればいい…
…何かあるはずだ…何か…
…誰のために?
自分のために?
ジャスティスのために?
世界のために?
……残り3分…
いや、俺はジャスティスだ。ジャスティスは世界だ。世界は俺だ。
………
…………………………………
「じゃあ俺は何だよ!!」
「ただの馬鹿です」
ジャスティスは俺の左腕を掴み上げ、時間を確認する。
「しかし貴方にこれをつけておいたのは正解でした。儀式の進行にはどうしても魔物の共鳴による時空歪裂は障害となり、正確な時間が分からなくなってしまいますからね」
ジャスティスが独り言のように言う。
「あと2分ちょっとですか…」
あと2分。俺はこのまま何もできずに終わるのか。
恐怖で体がガタガタと震えだす。
「何も心配することはありません。貴方はここで楽にしてればいいんです」
ジャスティスはかがんで剣を置き、俺の頭を胸にギュッと抱く。
「貴方は死んだのです。もう何もしなくていいじゃないですか」
汗でびっしょりとなった俺の頭をそっとなでる。
「貴方は天国に行けるのですよ。無限の安らぎがある場所。私が保証します」
俺は不思議と涙があふれてくる。ジャスティスはそれをあやすように小さな腕で俺を抱きしめ続ける。
しばしこんな時間が続いた。
「さて、あの神と決着をつけなければ」
ジャスティスが剣を握り立ち上がる。
「あ……」
俺はジャスティスを見上げることしかできない。
しかし、ジャスティスはそんな俺を見て微笑む。
「行ってきます」
満面の笑みで神の門をくぐっていく。
そして視界が一気に真っ白に。いや、白という色の概念もない無の景色になった。
世界は滅んだのだ
残り00秒
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