本丸にて

俺たちはバラバラに刻まれ、地面に落ちた少年と番人を空いた壁から見下ろしていた。




「これは…どうなったんだ…」


「番人の機能は完全に停止しました…トータル様は…」




 その時、後ろから足音が聞こえる。振り返ると先ほどまで少年とペアだった少女がそこに立っていた。すると彼女の全身から真っ白い石灰のような石が析出してくる。それらはたちまちに彼女を覆い、やがて柱状に変形した。




「いや~、死ぬかと思ったよっ」




 その柱はトータルさんのような軽い口調で言葉を発する。しかし、おかしなことに明らかに女性のように高い声だった。




「無事でしたか、トータル様」




 ジャスティスがそっけなく反応する。どうやらこの白いのがトータルさんらしい。よかった、無事で。




「まぁ二度と魔法が使えなくなっちゃったんだけどね」


「え…」


「外に落っこちたあれ、うちの器なんだ」




 あの番人を倒すためにそこまでするのか。いや、違う。俺たちを守るためにそこまでしたのだ。


 トータルさんは表情も身振り手振りもわからないけど、おちゃらけた口調の声に並々ならぬ覚悟を感じることがある。




「さて、本丸に行きましょう。ついて来てください」




 やはり時間が一刻も惜しいのかジャスティスはそう言うと、廊下の先に進んでいく。俺たちは何も言わず後を追う。






 いよいよ魔王とご対面か。俺をここまで連れてきたということはおそらく、ジャスティスは異世界人である俺にソードを使わせて魔王を倒すことを考えているのだろう。


 手が震えてきた。止められない。これは恐怖によるものだろうか。それとも武者震いか。後者であってほしい。




 歩いている最中、トータルさんが何やら呟く。






「…なるほどね…失敗したなぁ…」






 何を、失敗したのか。やはりさっきの戦いのことだろうか。魔法が使えなくなるなんて魔術師にとって最悪の事態のはずだ。




 周囲はやけに静かだ。その状況がさらに俺の緊張感を煽る。汗がどんどん噴き出してきて、胸の鼓動が聞こえてくるように強くなっている。


 ちらりと横を見る。ソードはあくびをかみ殺していた。こいつはどうして俺たちについて来てくれたのだろう。きっかけはジャスティスの手紙だ。あの手紙に何が書かれていたのか。そして何の目的があるのか。ドラゴンの討伐はイレギュラーだったはず。




「着きました」




 数分歩いて、その扉は目の前に現れた。




「この先が本丸です」


「いよいよだな…」


 ジャスティスはそっと扉に触れる。すると城の入り口と同様にひとりでに開き始める。




 俺たちはゆっくり歩を進めて中に入る。そこはドーム型の巨大な空間だった。




 本丸の床は石畳が円状に敷き詰められており、はるか高い天井を伝う壁には万華鏡のようなステンドガラスが装飾された窓が綺麗に整列されている。




 そして円状の空間の中心には人一人分くらいの光り輝く円鏡が浮かんでいた。




 あれが神の門なのか?…しかしそんなことよりも重要なことがある。




「魔王はどこだ!ジャスティス!!」




 そう叫びつつジャスティスの方を向くがそこにはジャスティスはいなかった。






 ガギィッ!!






 後ろで石が砕かれたような音がした。






 振り返るとジャスティスが純白の剣でトータルさんを突き刺していた。




「…何やっているんだ…?ジャスティス……」




 トータルさんの破片がぼろぼろと落ちる。




「やっぱりね…トラップはウチの魔法壁に反応していた…番人を倒しても他のトラップは残っていた……しかし…ここまで何事もなく来れたのは……」




 ジャスティスが剣を引き抜くとトータルさんが言葉を失い、地面に倒れる。




「マサヨシ様に言っていなかったことがあります」




 ジャスティスは俺の方を向く。その顔はなんの感情も表していなかったが、俺には圧倒的な恐怖を与えていた。






「私は魔王です」






 残り21分00秒


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