心に還る
トータルさんの身体の表面がもろい木の皮のようにぼろぼろと剥がれ落ちる。
中から現れたのは抱き合う二人の少年と少女。
少年は鼠色の服を着ていた。彼は女の子と見間違えるほど顔が整っている。一方、少女は何も着ていなかった。どちらも中学生くらいの年齢に見えた。
二人とも生気を感じない目をしており、ジャスティスが番人と呼ぶ生物を宙に浮かんだままじっと見つめている。
しばらく沈黙が続いたが、やがてその二人は観客席に下降する。二人は手を繋いでちぎれ落ちた一本の肉管の前に立つ。
少女がしゃがんで今だ痙攣している肉管を掴んだと思うと、肉管がその小さな手のひらに吸い込まれていく。
「魔力を…物体ごと吸収しています…」
ジャスティスが驚いた様子でつぶやく。
少女は床にこぼれた黒い粘液すらも吸収し始める。少年は彼女の手を握り、ただじっと番人の方をみつめている。
しばし警戒していた番人だったが、しびれを切らして突起を光らせ、ビームを放つ。
ギイィィィィィィィィィン!!
少年が手をかざし、魔法壁を展開してビームを防いでいる。
その魔法壁の色は真っ黒だった。
「なんなんだあいつら…」
「魔法を使った様子はありませんでした。つまりあれがトータルさんの真の姿だと推測できます」
「どっちがだよ」
「おそらく、どっちもでしょう」
とにかく、トータルさんが奥の手を使い始めたということか。
「キュィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」
番人が足の生えた口から高い鳴き声を出す。するともう一方の管の先端もまたしても口のように開き、今度はそこから巨大なカマキリの前脚が二本生えてくる。
番人はその鎌を低めにスイングして二人を狙う。
しかし彼らは一気に跳躍してそれを避ける。そしてそのまま飛行してステージに降り立つ。
少女は次は転がっていた楽器に手を触れる。すると楽器はガラス細工のようにバリバリと割れだし、少女の手に破片が吸い込まれていく。
番人は振り返り、彼らに鎌を振り下ろす。
「ギュイィ!!」
だが鎌は振り切れることはなかった。少年が真っ黒の杖でその攻撃を受け止めていた。足元の床は衝撃で蜘蛛の巣状に亀裂が走る。
その杖は如意棒のようにぐんと伸びたと思ったら、鞭のようにしなりだし、ひとりでに番人の鎌を縛りつけ始めた。
その鞭はどんどん細くなっていき、鎌を押さえつける力が加わる面積が小さくなっていく。
やがて鎌の外殻のあちこちから黒い体液が溢れ出し、綺麗に鎌が切断された。
番人の体が震え始める。すると口から再び鎌の脚を生やしてすぐに二人に振り下ろす。そして突起を光らせ、無数のビームを無茶苦茶に放出してくる。
二人は飛び回り、ビームを避けつつ、杖を槍のように尖らせて番人の体に突き刺したり、糸カッターのように変形させて番人を切り刻む。たまによけきれないと判断したのか黒い魔法壁で番人の攻撃を防ぐ。さらに時々下に降りて、少女が肉管や楽器を拾って吸収している。
そんな状態が数分続いた。
突然、二人がビームに直撃した。
「あっ…」
「魔力が底を尽きかけているのでしょう。いくら落ちていた残骸を吸収していたとはいえ。結界もすでに維持できずに消滅しています」
二人はホールの壁を突き破って吹っ飛ばされる。番人は体液をまき散らしながらそれを追いかける。
すると俺たちを覆っていたバリアがすうっと消滅した。
「私たちも追いかけましょう」
「ああ、勇姿を見てくれって頼まれたからな」
「ソード様、起きてください、行きますよ」
「うん…?分かった…」
ジャスティスは眠気眼のソードを引っ張り、番人がつくった巨大な壁の穴を通っていく。俺もそのあとに続く。
「トータルさん!」
進んだ先には廊下で所狭しと番人が蠢いていた。そしてこちらに気づいたらしく突起の一つをこっちに向けて光らせ始める。
まずい。これを食らったら何もできない俺は消し炭になるだろう。
「こっちだよ!!」
トータルさんの声が聞こえたと思ったら少年が番人を思いっきり蹴り飛ばし、番人はバランスを崩す。ビームはあらぬ方向に飛んでいく。
「この壁を越えたらどこに出るか知ってるかな!」
トータルさんの声がするが少年の口元は動いていない。
少年は番人の肉管を腕に抱えて壁に激突する。壁は壊れて、その先は城の外だった。番人と少年は外の空中に放り出される。
「じゃあね、先生」
ヴウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……
羽虫の音がしたと思ったら番人と少年の体が見えない何かによってバラバラに刻まれていく。
落下するたびに肉片は小さくなり、最終的に芝生に落ちるころにはどちらも茶色い砂になって混ざり合っていた。
残り27分41秒
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