39

 俺たちはコンサートホールのステージに移動する。ステージにはトランペット、クラリネット、シンバルなどの吹奏楽で使われる楽器が何やら真っ黒なインクのようなもので汚れて乱雑にあちこち転がっている。




「なんだこれ…」


「何かの魔法具のようだね。でも魔力が溢れていて使えない」




 その時、ステージの袖から足音が聞こえる。




「誰だ!?」




 姿を現したのは異様に耳が長い長髪の2メートルはある大男だった。もしかしてエルフというやつじゃないか?




「よう、久しぶりだなトータル」


「……先生…?」




 トータルさんが驚愕したような声を絞り出す。




「知合いですか?」


「…ウチの師匠だよ」




 ジャスティスがトータルさんに尋ねた。師匠だって?どういうことだ。状況が分からん。




「どうしてこんなところにいるんですか。ここは簡単に来れる場所ではないと思いますが」


「んん~、どうだろうねー」




 彼はジャスティスの問いの答えをごまかす。




「こんなところに先生がいるわけない、あれは魔法でつくられた幻影だよ」


「幻影?」


「そう、あれが魔王城において一番厄介なトラップ。侵入者の心の隙に付け込もうとするのさ」


「ということは幻だって分かっていたら何も怖くないんじゃ?」


「概念魔法がそんな生易しいもんじゃないよ」




 その瞬間、男の目からきらりと白く光ったと思ったら、トータルさんの前で閃光が弾ける。弾けた閃光は床をえぐり、その断面が焼け焦げている。




「人の想いすら魔力に変換してしまう。そして物理的な攻撃を仕掛けてくるんだ」




 その男は腕をだらんと降ろすと、その腕がぼんやりとした光に変わっていき、再び光のまま腕の形に戻る。しかし、腕は1.5倍ほどの大きさになり、関節部に何もない骨だけのような形状になっている。


 さらに彼の腹から勢いよくはらわたが飛び出して巨大化していく。何本ものド太い腸が彼の身体を10メートルほど持ち上げ、他の臓器は彼の体の周りに癒着する。


 俺たちはトータルさんの透明な魔法壁に抱えられ、観客席側に避難する。




「あれが『最後の番人』ですか…彼を倒せば本丸に続く門の施錠魔法が解けるはずです。トータルさん、お願いします」


「りょうかーい」




 するとトータルさんが何やら早口で呪文のようなものを唱え始める。唱え終わると俺とジャスティスとソードを囲って不思議な文字が羅列された半透明のドームができる。




「そこでウチの勇姿を見ててねっ!」




 そう言うとトータルさんは浮遊して男の方に向かっていく。そしてトータルさんの黒柱から次々と剣のような鋭い棘が生えてくる。それらは意思をもって男の肉色の体に突撃する。




 生々しい音を立てて男の体に突き刺さり、臓器の管がばらばらと飛び散る。






「ありがとう」




「先生、今からお別れできるよ」






 残り38分23秒






 

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