くっつく 前編
「ライト、世界は何でできていると思う?」
「はぁ…、なんでしょう」
ここは魔力に富んだ種族、エルフの村、そのはずれにある魔術師ポージの研究所兼住居。僕はポージ先生の唯一の弟子。そして、彼はエルフだが僕は人間だ。
「いいから答えてみろよ」
「うーん…僕は粒子説を信じていますね」
「つまんねえなぁ、自分の意見を言ってみろよ」
「はぁ…」
「まあいいや、俺はなぁ、世界は『愛』でできていると思うんだ」
「愛?」
「この世のすべてのものは一つだけでは何の力もない。異なるもの同士が結合し合ってはじめて存在意味が生まれる。家は地面がないと建てることが出来ない。魔力は器がないと魔法にならない。生物は他者と交わらないと新しい命を生めない。ではなぜ万物は結合しうるのか。何がそんなに他者を引き付けるのか。それはすなわち『愛』だ!」
「それって知性がある生き物に限った話じゃないですか?」
「いや、それは違う!」
先生は僕の指摘に食い気味に反応する。
「羽虫にも愛はある。地面の土にも愛がある。この本にも!あれも!それも!」
机の上の魔術書をポンと叩いて、実験具をいろいろ指さし始める。さらに哲学的な言いまわしで訳の分からないことを熱弁しだす。
また始まった。いつものことだ。先生は思いつきを根拠もなく自慢げに話す。だから、あまり人望がない。しかし、僕は捨て子だったため、ここ以外に居場所はない。
エルフの村は基本的に自給自足だ。と言っても彼らは魔法に長けているため、あまり苦労はないようだ。しかし彼らは肉や魚を食べない。つまりお金が流通していない山奥の村で人間の僕は自分で狩りをしないといけないのだ。もちろん最初は苦労した。先生に手伝ってもらってやっとウサギを一匹仕留めることが出来た。今は獣の習性や魔法のコツがわかるようになり、食べ物には困っていない。
「しかしライトは本当に魔法の上達が早いなぁ、とても人間とは思えないぜ」
「ポージ先生の指導のおかげですよ」
「お前は俺の研究の手伝いをしてるだけじゃないか。お前がすごいんだよ」
「どうも…」
「うじうじして自信のないところが唯一の欠点なんだよな~」
意地っ張りでわがままな先生だったが僕のことだけは素直に褒めてくれた。彼がたまに知り合いのエルフと話している時もいつも僕の自慢話をする。話し相手はうんざりしている様子だった。
「しかしお前はいつまでたっても女みてえだな」
「…そうですか」
「今何歳だっけ」
「13です。多分」
「若いなーまだまだガキだからしょうがねえか。エルフなんて100歳超えてやっと成人なんだからな」
「先生はおいくつなんですか?」
「忘れた」
「え?」
「150歳くらいから数えるのめんどくさくなったんだよな」
色々適当な人だったが僕の面倒をしっかり見てくれるし、なにより研究熱心な人だった。毎日魔法の研究に精を出し、時には魔術書を買うため街に出かけたりもした。
研究内容はころころ変わっていたが、おかげで幅広い分野で博識であった。また僕もいろいろなことを学ぶことが出来た。
ある日、ポージ先生が扉を勢い良く開けて研究所に入ってきた。彼は数日間研究所に帰ってきていなかったがよくあることだった。そして息を乱しながら言う。
「これを見ろ!世界最硬の魔法石タクトラスだ!ついに手に入れたぞ!」
「…それ、どうするんですか?」
袋の中から取り出されたのは黒いうっすらと光沢を放つ小石。
「なんだよもうちょっとテンション上げろよ。図鑑でしか見たことないだろ」
「魔法石はそこまで好きじゃないですし…」
「まぁいいや、とにかく俺はこれで世紀の大実験をする。実はお前にも内緒にしていたんだ」
これまたいつものことだ。新しい研究をする時は決まって直前まで教えてくれない。
しかし、彼が今から行う実験が僕の人生を大きく変えることになるとは夢にも思わなかった。
「こいつで人間をつくる」
彼はいつもより声を低くしてそういった。
「どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。こいつに意識を持たせる。計画は完璧だ。これを見ろ」
渡されたのは魔法列式と文字で埋め尽くされた紙の集まり。
なんだこれは。しっかりと接合性のとれた論を説明している。彼の性格からしてこんなものを用意するのはありえなかった。
「セトラ地方の村でとある魔術師にあった。おかしな人だったよ」
「先生がそれ言います?」
「うるせえっ、とにかくあの婆さんは俺の話を熱心に聞いてよ。興味を持ってくれたらしくてこの石をくれたんだ。お人よし過ぎるよな。それから色々話しているうちにアイディアがどんどん生まれてきてこれを書き上げることが出来たんだ」
この時僕は悟った。先生はいつも無謀で突飛な研究をしていたが、発想は独特のものを持っていた。彼は仲間が必要だったのだ。いくら素晴らしいアイディアを持っていても周りの刺激で呼び起こさなければ意味がない。
安心した。先生の研究は報われるのだ。いつか大勢の人に評価されるだろう。
早速僕たちは研究にとりかかった。僕は計画書をすべて理解できたわけではなかったが、先生が今まで以上に生き生きと研究をしている様子を見て、不安は一切なかった。
僕は主に必要な材料を集め、先生がそれで組み立てる。
そうして数ヶ月が過ぎたある日
「完成だ!」
「…凄い……」
出来上がったのは僕と同じくらいの年の少女。先生がなかなか同い年の女の子に会えない僕のためだといったが、絶対僕をからかおうとしているだけだ。
「よし早速起動だ」
先生が少女の足元に魔法陣を展開する。すると直立していた少女がだらんと膝をつく。
「…う…ああ……」
成功だ。
「お前は服を着せてベットに寝かせてやれ。これからが大変だぞ。言葉も教えなきゃなんねぇ」
それはそうとこの子の名前はどうするんだろうか。
「決めてあるぞ。古代文字からとった」
先生は虚ろな表情の少女をじっと見つめる。
「この研究は俺一人じゃ成し遂げられなかった」
「よって合作、接合品などを意味する…」
彼の口角が上がる。
「トータルだ」
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