魔王城
俺は魔王城の正門らしき巨大な門の前に降り立つ。
「ふっか~つ!」
ただの黒鉛筆と化していたトータルさんが目を覚まして起き上がる。
「ここからも~っと張り切っちゃうよっ」
「それでは中に入りましょう」
ちょっと待ってくれよ。まだ息が切れて立っているのがやっとで言葉も出ない。セントウも膝をついて顔を伏せている。露出の多い全身には汗が滴っている。俺はずっと全速力で飛んでいた。
一体何キロ飛んでいたんだ。ずっと景色が変わらないので幻覚を見そうになった。
「セントウさん、ここまでありがとうございました。貴方の成果は決して無駄にしません」
ジャスティスはそれが別れの言葉のつもりなのか正門に歩いていく。
「…はぁ…はぁ…連れて行かないのか…?」
「これだけ魔力を消耗してしまっては連れてはいけないでしょう。貴方はまだ役割がありますが、すでにドラゴンの問題は解決しました。それにここにいる方が安全です」
「…そういうことか…じゃあここでお別れだな…セントウ…」
俺は乱れる呼吸を整えつつ何とか言葉を紡いでいく。セントウもゆっくりと顔をあげる。
「……世界を救ってきて……」
そう言ったセントウは笑顔だった。こんなセリフを言われるなんて夢にも思ってもみなかったぜ。思わずテンションが上がって身震いする。
「…おう!行ってくる!」
ジャスティス、トータルさん、ソード、そして俺の四人は正門の前に立つと、門がひとりでに軋むような音を立てて開いていく。
まるでゲームのダンジョンみたいだ。そして俺はこんなことじゃ驚かなくなるほどに常識感覚が麻痺していた。
俺たちは平然と門をくぐる。中は城壁に囲まれた中庭になっていた。黄緑の芝生が広がっており、見たことのない木の実が生っている無数の園木が綺麗に本館を囲むように何列も整列していた。
「ウチの出番だねっ、みんな、ウチから離れないで」
俺とジャスティスとソードは言うとおりにトータルさんにくっつきそうなほど寄り添って歩く。
しかし、特に何も起こっている気はしない。本館に向かう俺たちの足音だけが辺りに響いている。
「トータルさん、何が起こっているんですか」
「侵入者用のトラップが作動しているの。離れたらこま切れになるよ」
「そうですか…」
訳が分からないがとにかく離れたらヤバいってことね。それで納得できる俺の適応力も大したもんだ。
やがて本館の門の前に来る。
「穿て、聖なる煉拓よ」
トータルさんがそうつぶやくと門に巨大な風穴ができる。音もなかった。そして俺たちはいよいよ本館の中に入る。
本館の中は灰色の石造りの廊下。壁には蝋燭がズラリと並んで、中を照らしている。
奥に進もうとした瞬間、何かが高速で接近してきて、それが俺たちの目の前ではじかれて床に落ちる。
「フォーク…?」
はじかれた衝撃で三本の先端が折れ曲がっている。
「またまたトラップだぁ」
「これが…?」
「ふふ、君の世界はどうか知らないけど、ファークは食事を象徴しているの。食ではなく食事。概念魔法で顕現した物はその物のイメージが強制的に具現化する…う~ん、言葉じゃ上手く説明できないなぁ。…とにかくこういう武器っぽくないものほどヤバいってこと。例えばこのフォークに触れたら存在ごと喰われちゃう。元から世界にいない扱いになるの」
恐ろしすぎる。絶対に神の門には近づけまいという魔王の魂胆が目に見えてわかる。
それにしてもトータルさんの魔法壁には色がない。透明で目視で確認できず、さっきもひとりでにフォークがはじかれたように見えた。
セントウは俺の赤い魔法壁を見て精神が不安定だと言った。ということは魔法壁の色は感情?のようなものを表しているはずだ。俺は赤、カオルは確か…黄緑。ちなみにワンタンは白だった。
では透明なのは一体何なんだ?明らかに異様な気がする。
「本当はカオルも魔王城での護衛をしてもらう予定でしたけど、トータル様一人に任せることになってしまいました」
「気にしなくていいよ。正直想定してたからね」
この人は何をどこまで知っているのだろうか。気さくな人だが見た目も含めて怪しい雰囲気を醸し出している。
それにしてもジャスティスはカオルを呼び捨てにしているのか。なんだか屈辱的だ。
俺たちはさらに奥に進んでいく。その間いろんな物が突撃してきて目の前ではじかれる。フォーク以外にも鋏、置き時計、木箱、鍬、ぬいぐるみ、…などなど。関連性のないようなものが次々と激突しようとしてくる。
行き当たりに階段が見える。階段を上り、さらに廊下を進んで曲がり角をいくつか過ぎるとひらけた空間に出る。
そこはコンサートホールだった。三階構造の巨大なホール。俺たちは二階席の真後ろにいた。
「ここからがちょ~っと面倒なんだな~」
トータルさんはため息交じりに言う。
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