わたしたちの王子様

ジャスティス様から今の世界の状況を聞かされた時、僕は特段驚かなかった。ジャスティス様の望みがどんなことであろうと打ち明けてくれたら黙って聞いてあげようと、前々から心に決めていた。






 僕はジャスティス様と会った二か月後、王都で再会した。だが、そこに集められたのは僕だけではなかった。




 トータル。世界最高の魔術師の異名を持つ。僕と同等ほどの魔力を感じ取った。話してみると信頼できそうな人柄が読み取れて安心した。




 アルティメット・ランキング。恥ずかしがり屋の少女。この少女があの惨劇の犯人とはとうてい信じられなかった。




 最後にジャスティス様が連れてきたのはマサヨシという青年。とても気持ちの悪い感じがした。彼は僕と同じ異世界人だというが、それがさらに僕の違和感を加速させた。彼と自分が同列に並べられることに。




 しかしなんにせよ僕はジャスティス様に従うだけだった。






 そして、今ドラゴンと対峙している。




「はぁぁ!!」




 ドラゴンの股下をくぐり、両足の腱を斬りつける。鱗が火花を出して飛び散る。




「ギィッッ!!」




 ドラゴンが悲鳴をあげ、バランスを崩す。


 すかさず無防備な背中に両手の剣を振りかぶって斬りつける。




 斬りつけたところから葡萄の木がとてつもないスピードで生え、天井に枝を張り巡らせる。


 よし、成功だ。これで魔力を吸い上げて身体能力の上昇をいくらかは抑えることが出来る。




 しかしドラゴンが怪しい動きを見せる。体を高速で震わせ始めた。




 嫌な予感だ。


 持っていた二つの剣を結界壁に変形する。すると葡萄の木の葉が燃え始めたかと思えば、木と辺りの床や天井が融解する。ドラゴンがとてつもない熱を放出しているのだ。


 結界壁を張っているはずなのにこちらの衣服も焦げてきた。




「なんて熱量だ…。そちらも出し惜しみなしってことだね!」




 耐熱強化魔法をかけ、結界壁を解いて再びドラゴンに向かっていく。




「アンナ!」




 剣を召喚し、ドラゴンの胸を斬りつける。鱗を数枚剥いだが強固な胸板で剣が折れる。




「ハイジ!」




 両手剣でドラゴンの顎に振り上げる。しかしドラゴンは首を曲げて避け、剣を掴んで粉々に砕く。




「セレタール!」




 ドラゴンは爪を突いてくる。血の結界壁でそれを防ぐ。血がこちらに飛び散る。




「シナ!」




 衝撃で体の浮いた僕をドラゴンは体を半回転させ、尻尾でひっぱたこうとする。鋭利な棘鱗のついた鞭が襲う。それをまたもや血の結界壁で防ぐ。




「ぐぅっっ…」




 血の結界壁でもあっさりと壊され、衝撃が伝わるようになってきた。




 まだだ。まだ残っている。ここで一気に決める!!






 記憶が失って初めて剣を召喚したときこんなことを言われた。




「言っとくけど私たちは剣なんだからね!」


「…どういう意味?」


「人間として扱うなってこと。昔のお前は私たちに自分を慰めてくれることを期待してた。だから人格と肉体を与えたの。馬鹿馬鹿したらありゃしない!」




 記憶をなくす前、僕はそんな人物だったのか。どこか他人事のようだった。




「…寂しいのは理解できなくもない。けどね私たちは愛玩具じゃない。主に握られ、生き物を傷つけ、戦場で散るのが存在意義。今のお前はそれを忘れるなよ」




 それが剣…。




「わかった約束するよ。君たちは戦いでしか使わない。…その代わり昔の僕は何者だったか教えてくれるか?」




 彼女はぺろりと舌を出す。




「教えねーよ」






 残り1時間7分04秒


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