幸せは何物にも比例しない 後編
ジャスティスがいきなり流暢にしゃべりだした時には心臓が止まるかと思ったが、意外にもすぐにジャスティスとの生活に慣れた。
そしてジャスティスが7歳になる頃。
「学校に行きたいのですが」
「…え」
僕は動揺した。この頃にはジャスティスの育ての親としてすっかり情がうつっていた。
「いいでしょうか」
「………」
「聞いてますか?」
「あ、うん。そうか…学校か…。ここからじゃ通えないから下宿か寮になるな…」
早速戸籍をつくり、ジャスティスの希望通り王国トップクラスの魔法学校の入学試験に申し込みをした。
そして試験当日。僕らはその学校を訪れた。
「今日は筆記試験だけなんだっけ」
「はい。二日目は実技です」
辺りを見渡すと受験者はほとんど10代半ばほどだった。
「ねえ、本当に受けれるのかな」
「受験資格は7歳以上でしょう?何を言っているのですか」
そういうとジャスティスはためらいもなく校門に向かっていった。本当に大丈夫だろうか。周りからは不審な目で見られている。
「ハァ…」
ため息をついてその場を後にする。すると誰かに後ろから声をかけられる。
「ちょっと君、試験に遅れちゃうよ」
試験係員らしき男性だった。
夕方になり、校門でジャスティスと合流した。
「どうだった?」
「神様にそれを聞くとは愚問ですね」
ジャスティスは表情には出さないが嬉しそうだった。どうやらいい出来だったらしい。
そして二日目。魔法実技のようだが、ジャスティスはどれほど魔法を使えるのだろうか。今まで使っているところを見たことない。
その日も同じように夕方にジャスティスと合流した。
二週間後校長から面会願いが届く。僕はジャスティスを連れ再び学校を訪れた。
「筆記も実技も満点!わが校始まって以来のことだよ!!」
肥えた腹の校長は僕らを客間に座らせ、鼻息荒くして言った。
「ジャスティス君には高等進級試験を受けてほしい。合格点に達したら、そのまま高等クラスに入学してもらいたい。いかかがですか、父上様」
高等クラスだって?その気になれば博士号だって取れる等級だ。しかも国内トップクラスの学校だったら国から直接魔法士のスカウトがくる。
「ジャスティス、受けてみる?」
「もちろんです」
ジャスティスは難なくその試験に合格した。早速ジャスティスは高等クラスから入学し、学校寮で生活することになった。
それから二年が過ぎた。
「お久しぶりです」
「ああ、おかえりなさい」
ジャスティスが一年ぶりに帰省してきた。最初の一年は長期休業のたびに顔を見せに来てくれたが、最近は手紙だけのやり取りだ。
「国立軍で勤めることになりました」
「軍隊に?なんでまた」
「騎士長になるためです」
「そんな夢を持っていたの?」
「いいえ、私には地位が必要なんです」
前々から感じていたけど、ジャスティスは明らかに目的をもって行動している。一緒に生活していたころもふらりといなくなって夜に帰ってくることが時々あった。初めは肝を冷やしたがそれを繰り返すうちに慣れてしまった。
「じゃあ、騎士長様になったら敬語で話さないとね。ジャスティス様ってね」
「やめてください気持ち悪いです」
前見たころよりも随分と背が伸びたジャスティスは反抗期に突入したようだ。(元)神様を名乗っているが、喜ぶときには声色が明るくなるし、怒りの沸点もなかなか低い。僕からしたら少し生意気な娘だ。
僕は彼女が何を望もうと力になってあげようと、とうの昔に決めていた。
数日後、再びジャスティスのいない生活に戻っていた。そのころには記憶がどうしてなくなったのか自分なりに結論を出していた。
一からやり直したかったんだと思う。人々から追放され、絶望したときにジャスティスを拾い、その赤ん坊に希望を見出そうとした。
ならば過去の自分のためにもジャスティスに尽くさなければならない。
さらに一年が過ぎた。ある日、本を読んでいると家の扉をノックする音が聞こえた。扉を開けると赤い軍祭服を着たジャスティスが立っていた。またさらに背が伸びている。後ろには巨大なワイバーンが控えていた。
「お久しぶりです。ログ王国騎士長として貴方に依頼したいことがあります」
僕はしばし彼女を見つめる。
「少し堅苦しいよ」
「礼を怠る者は全てを怠るのです」
僕はその言葉を聞いて、微笑み、頭を下げる。
「どういったご用件でしょうか。ジャスティス様」
彼女は少し戸惑ったかのように左手をわずかに握る。そして、懐から封をされた手紙をこちらに差し出す。
「世界を一緒に救ってほしいのです。二か月後、王都に来てください。詳しい日時と場所はここに」
残り1510時間29分40秒
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