全剣の使い手

目を開けるとセントウと共に巨大な眼の外の地面に立っていた。




「なあセントウ、お前はドラゴンが死んでいたことに気づかなかったのか?」


「…知らなかった……常に感じていたドラゴンの気配は……わたしの……勘違い……?」




 ドラゴンはあの眼の中に閉じこもっていた。もしかしたら、あらかじめ自分が死ぬことがわかっていたのでは。




「…ドラゴンってのは寿命はどれくらいなんだ?」


「…ない……ドラゴンは不老………」




 てことはドラゴンは自分で……。




 俺の考えていることが分かったのかセントウは青ざめていく。




「…まさか……ドラゴンは……巫女を開放しようとして………」




 俺はセントウの手を乱暴につかむ。




「落ち込んでいる暇はない!自分から話題を振っておいて何なんだが…でも、いずれお前はドラゴンの呪縛から解放されるべきだったんだ」


「………」


「行き先を教えてくれ!」




 セントウはゆっくりと腕をあげ、とある方向を指さす。




________






 マサヨシの魔法壁が解け、ドラゴンの爪がカオルに襲い掛かる。




「兒剣、来い!」




 カオルの手元に刃身が青みがかった片手剣が出現する。カオルはその剣で攻撃を受け止めるも、体は部屋の外に吹き飛ばされる。そこは廊下のようだった。


 さらにドラゴンはカオルを殴りつけてくる。カオルは剣で攻撃を捌くも徐々に後ろに押される。




「広域魔法が使えない!この空間は魔法域自体も制限されているのか!」




 剣はドラゴンの攻撃によって徐々に刃こぼれし、やがてその刃身をドラゴンに掴まれる。カオルは引きはがそうと剣を引っ張るが、剣の強度はドラゴンの握力に屈し、粉々に砕け散る。


 カオルは剣を捨て、魔法陣を自分とドラゴンの間に展開する。




 その瞬間、魔法陣から出てきたものがドラゴンに触れ、ドラゴンの体を吹き飛ばす。ドラゴンは壁に叩きつけられ、ぐったりとする。壁には亀裂が走る。




「ちゃーす!ひっさしぶりのお外だ~!!」




 魔法陣から飛び出したのは、はしゃぐ全裸の少女だった。身長は150㎝ほどで長い黒髪の中に黄緑色が所々混じっている。




「よろしく頼むよ、セーラ」


「ほうほう、今回の相手はどらごんちゃんですか~…てっ、死んでるじゃんかぁ~やだ~セーラは殺したかったのにぃ~むうぅぅ」




 セーラと呼ばれる少女は頬を膨らませる。




「はは、ご主人様の言うことは聞くもんだよ」


「ショウガナイナー。こうなったら思いっきり体動かしちゃうからね!」




 言い終わるやいなや、セーラは右手でカオルの首を掴み、力を込める。カオルの体は痙攣し、やがて何かが折れる音がして頭がだらんと垂れる。


 その後、セーラの全身の皮膚が剥がれ落ちて、セーラの肉はカオルの首に吸い込まれていく。セーラの背骨だけが取り残され、カオルがそれを掴むと細身のレイピアに変形する。刃は紫色に煌めいている。


 カオルの肌はあちこち爛れ始め、その部分には黄緑に輝く魔法陣が浮かび上がる。そしてカオルの眼の瞳孔が赤色に変わる。




 やがてドラゴンが起き上がり、カオルに向かってくる。




 カオルは床を踏み込み、ドラゴンに突っ込んでいく。カオルはドラゴンの懐に入ると、剣を脇腹に突き立てる。




「ィィィィィッ!!」




 ドラゴンは呻き、レイピアを掴んで強引に体から引き抜く。さらにもう片方の腕をカオルの頭に振り下ろす。しかしカオルは横に飛び、攻撃を避け、その勢いのまま掴まれたレイピアを引き抜く。




「肉体強化レベルΩ。使途移剣に炎撃、狂風を付与」




 カオルはドラゴンの頭めがけてジャンプする。ドラゴンは反応できず、首に炎を纏った一閃を叩き込まれる。




 がギィィィンン!!




 しかし、ドラゴンの首は傷一つ付かない。その斬撃は空間を切り裂き、辺りの壁は斬傷をつけられる。




「朱毒、氷結、貫撃を付与」




 カオルは空中で体を回転させ、遠心力で今度はドラゴンの頭にレイピアを叩きつける。その瞬間ドラゴンが頭から一気に霜が付いて凍っていく。


 一瞬ドラゴンの体は硬直したが、直ぐに放熱し、蒸気を出して動き出す。




 またドラゴンは臆することなくカオルに攻撃を与える。




(駄目だ…毒も効いてないみたいだし…)




 カオルはドラゴンの攻撃に防戦一方になる。




(しかも耐久力も増してきている気がする。他に何か手は…)




 ドラゴンの薄い翼が広がっていく。やがて翼の一部は引き裂かれたかのように分裂し、尻の上に集まり、長い尻尾を形作る。


 さらに他の翼の欠片は3メートルはあろう金色の大剣になる。棘のような指をバキバキと音を立て曲げながら片手でかまえる。






 ドラゴンはそのまま剣を横に振る。その斬撃は壁ごと切り裂きカオルを襲う。






(まずい!白防魔法!!)




 カオルは渾身の力でレイピアを振るい、その攻撃をかき消そうとする。




 攻撃が衝突し、爆雷のような轟音が響き渡る。




『あーあ、こりゃ駄目だー。じゃあねご主人様』




 レイピアにピシピシと亀裂が走り、やがて砕け散る。カオルの魔法が解け、カオルは弾き飛ばされる。




「すまない…セーラ……」




 カオルは立ち上がり、床に魔法陣を4つ展開する。




「アリサ、レン、ダトマイル、バイオレット、来い」






 魔法陣から4人の少女が現れる。






 残り1時間8分14秒


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