ドラゴン、現る
とりあえずこっちもカオルにこれまでの経緯を簡単に説明する。
「へぇ~、ドラゴンの巫女の力をねぇ」
カオルは驚くどころか一度も質問をすることもなくニヤニヤと相槌を打ちながら聞いていた。
「それなら僕の出番はなさそうだ。ジャスティス様のところに戻るとするよ」
ジャスティス…、魔王を倒して世界を救うにはやはりあいつの力が必要なんだろうか。そうなると、どんな顔してまたあいつに会えばいいのか。
「マサヨシ君、君はもう一度ジャスティス様に会いたい?」
カオルが俺の心を覗き込んだかのような質問をする。
「そりゃまあそうしないと…」
「そういうことじゃない」
「どういうことだよ」
「…言いたくはないんだけど、ジャスティス様は君を必要としてるんだよ」
「……」
「君はどうなの。ジャスティス様が必要なんじゃないのかい?」
「どうしてそんなことを聞く?」
「君とジャスティス様は何か強い力で繋がっている気がするんだ。僕にも計測できない未知の力。まるでこの世界に存在しないモノのようだよ」
それってもしかして俺とジャスティスは前世で繋がりがあるってことか?いやいや、そんなわけないか。該当するような人物は思いつかない。そもそも神様と俺が関係を持っているはずはない。
でも確かにジャスティスとは初めてあった気がしない。
「…会いたい」
カオルがにっこりと微笑む。
「ま、まあ…あんなガキ放っておけねえよな」
鼻を掻いてさっきの言葉をごまかすように言う。
「じゃあ待っているよ。『駒無しの関』にいる。セントウさん、分かるよね」
「……うん…」
「それじゃあ…」
「いや待て。さっきなんで悠長に本読んでたんだ?」
「…いや~つい気になっちゃてね。不思議な本ばかりだよ。字は読めても単語の意味が全く分からないものがほとんどで。部屋を照らす光もなんだか不思議だ…。魔法でもない」
「…電球だろ?何とぼけてんだ?お前も異世界人だろ?」
「僕は昔の記憶がなくてね。それに君と同じ世界から来たとは限らないし…。いやでも、この空間は僕の深層意識が反映されているとしたら…。てっ、こんなこと話してる場合じゃないか。じゃあもう行くね」
カオルは足元に魔法陣を展開する。
その瞬間、轟音が鳴り響き何者かが俺たちにとびかかる。
壁が壊され、本棚を吹き飛ばし、本が水平に飛んでいく。そしてカオルが魔法壁を展開して俺たちを覆い、突然の襲撃を防ぐ。
金属同士を高速でこすり合わせたような音を立てる。襲撃者の体は俺たちの上側の魔法壁を削りながら吹き飛んでいき、反対側の壁に衝突して風穴を開ける。本の破けたページがひらひらと舞う。
「な、なんだぁ!?」
「まさか!!」
壊れた穴からソレは姿を現した。体長5メートルほどのドラゴンというよりリザードマンのような生物。猫背で二つの足で立っているが、腕は異様に長く脛まである。金色の鱗を纏い、その顔には眼が見当たらない。翼は骨が通っておらず、透けるほど薄い。後頭部には焦げ茶色の腸のようなチューブが無数に生えて蠢いている。手のひらはなく、両腕の先端に5本ずつ真っ黒の巨大な棘が突き刺さり、それを指のように動かしている。
「…ドラゴン……」
思ったより小さい。まさかワイバーンより小さいとは。
「…どうして……あれはもう……」
ドラゴンが口をがばりと開く。墨のように黒い涎がダラダラと垂れる。ゆっくりと体を揺らしながら、こちらに歩を進める。
「…死んでいる……」
「何言ってんだ!動いているだろ!」
「ドラゴンは潜在魔力が巨大すぎて…命が尽きても…魔力が溢れて出て体を動かす……ドラゴンはそのことを知っていて……ここに閉じこもっていた………」
「じゃあなんで俺たちを襲うんだ…」
「…彼にはもう生物としての本能しか残っていない……わたしたちを…餌だと思っている………」
ドラゴンは再びとびかかってくる。カオルが魔法壁を展開しようとするがそれより先に俺が魔法壁を展開して攻撃を受け止める。カオルにこの力を証明したかった。
「やるね」
「はは、どうも」
カオルのにやけ顔の反応を苦笑で返す
「でも…ごめんね」
俺とセントウの足元に先ほどカオルが出した魔法陣が出現する。そして体が光りだす。おい…まさか……。
「何する気だ!」
「ここは僕に任せて。君たちはジャスティス様と合流するんだ」
「馬鹿言うなよ!お前は…」
「死体処理は君たちのやるべきことではない。行ってくれ。他にやることがあるはずだ」
「そんな…」
カオルは俺をしっかりと見つめ、にこやかに言う。
「ジャスティス様をよろしく頼みますよ」
そして視界が真っ白になった。
残り1時間6分02秒
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