竜の味
巨大な眼に対峙してからセントウは泣いたまま固まっている。
「おい!これがドラゴンなのか!?」
「……」
俺の呼びかけに全く応じない。
「セントウ!!」
「………」
「このままでいいのか!?このままじゃみんな死ぬ!お前は何もこの世界を知らないまま消えちまうんだぞ!」
「………ぅ」
セントウは震える手を前に掲げる。
「……近づいて…」
「え?」
「あの眼に……」
俺はセントウの言うとおりに胎動する眼に近づいていく。血走って赤いはずの血管は近づくたびにグラデーション的に色が変化している。
やがてセントウの手が瞳孔に触れる。金色のソレは以外にも柔らかく、触れた手がクッションに腕を押し込んだようにめり込んでいく。さらにそこから黒い粘液が溢れ出してくる。
「おい…何してんだ…?」
「…ドラゴンに……許可を…『白見合いの間』で…『エナイトー』を壊す……このまま『ターツ』の中に入って……」
また訳の分からない単語が出てきた。
それにしてもこの中に入るって?正気じゃないが…大口を叩いた手前、引き下がるわけにはいかない。
俺とセントウは眼の中に入っていく。体中に粘液が絡みつく。さらに奥に進もうとするが、全く前に進まない。しかし数秒後、体が複数のぶにぶにの物体に押され、俺たちは眼の中でかき回される。どっちが地面かわからなくなるほどだったが、しばらくすると開けた空間に放り出される。
そこは予想だにしない場所だった。近代初期のような豪華な西洋風の部屋。8畳間ほどだ。いろんな物があふれていたが、決して散らかっているわけではなく綺麗に整頓されている。本棚には厚めの本がびっしりと揃えられ、他の棚には少女人形、オブジェや飾り盾などが所狭しと詰められている。
そしてそこには思いがけない人物がいた。
「あれ?マサヨシ君?なんでこんなところに?それにドラゴンの巫女さんも」
「お前こそなんで……」
カオルが部屋の隅の木椅子に座って、紺色の本を開いていた。
俺たちに声をかけ、本を閉じて立ち上がる。
「こちらから経緯を説明するよ。僕はジャスティス様の命令でここに来たんだ。あの後ドラゴンの巫女…セントウさんがいなくなってしまって、ジャスティス様は予備策を打った。」
「予備策だって?」
「ドラゴンを殺して強行突破する」
「な…」
「本当は計画完了までの皆の護衛が僕の役目だったらしいんだけどね」
残り1時間10分29秒
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