おれをあんまりなめるなよ 後編

「…翼をイメージして…なんでもいい…」


「翼か…」




 セントウは俺に同行してくれるようだった。だからって急に好意的になったりなんかしていない。セントウは俺が力を発揮する条件を淡々と説明した。




 第一に俺とセントウの身体が接触していること。だから今こうして手をつないでいるわけだが。




 次に俺は自分のしたいことをイメージし続けること。空を飛びたかったら、常に空に浮いている感覚をイメージし続ける必要があるらしい。




 最後にセントウの集中力を維持すること。セントウは俺が魔力を魔法に使えるように器(魔法が発動させるための装置のようなもの。セントウが保持。)と魔力をつなげる意識を常に保つ必要があるため、例えばセントウが負傷し、痛みによって集中力が切れたとき、魔法は使えなくなる。




 俺はセントウに言われるがまま翼をイメージしようとする。翼……。どんなのがいいか…。思い浮かぶのは天使のような真っ白な翼、カラスのような真っ黒な翼、ワイバーンのような肉々しい翼、とあるロボットアニメで見た機械仕掛けの翼。


 しかしそれぞれ両側の肩甲骨から出現したのは赤い半透明の光線だった。ペットボトルほどの太さ。それはどこまでも伸びていき、果てが見えない。




 これが翼…?




「…赤い……精神が不安定………」


「だ、大丈夫なのか?」


「…それは…あなたの問題……とにかく…飛んでみて……」




 俺は体を浮かせることに集中する。


 意外にも簡単に足が地から離れる。手をつないでいたセントウも同時に浮き始める。




「セントウ、方角は」


「…ん」




 セントウはとある方向を指さす。


 俺はその方向に向かって飛ぼうとする。すると急加速して、とんでもない風圧が襲い掛かる。




「………っ」




 まずい。息もできない。止まってもいいが恐らくゆっくり行っては間に合わない。トータルさんはもっと速かった。


 そうだ。トータルさんもワンタンも魔法でバリアを張っていた気がする。今なら自分にもできるはずだ。




「くっ……」




 何とか手を前に掲げる。そして目の前に壁ができるイメージを念じる。すると半透明の膜が布のように俺たちを覆う。またもや赤色だった。風圧が全く感じなくなる。




「ハァ…、死ぬかと思った。すまんセントウ、平気だったか?」


「……………」




 平気なわけないか。めちゃくちゃぐったりしている。申し訳ないことをしてしまった。


 でもこれで安心して飛べる。俺はさらに加速を試みる。


 とてつもないスピードで視界がぼんやりして、景色なんて全く見えない。明らかにトータルさんより速い。






 そして数十秒後、とてつもない気配を感じて急停止する。




「……あ…あ………」




 セントウがそ・れ・を見て、目を見開き、身震いする。




 そこにあったのは巨大な眼。小山のような大きさの金眼が目の前に浮かんでいる。あちこちに大樹ほどの白い剣が突き刺さり、どす黒い粘着性のある液体を垂れ流している。


 おぞましい姿だった。その眼は血走り、こちらを見ている。




 おいおいまさかこれがドラゴンとでもいうのかよ。




「…ダメ……わたしには……」




 セントウは涙を流して言う。




「安心しやがれ……今の俺は誰にも負ける気はしない……」




 強がりを言うしかない。




「俺をあんまり舐めるなよ…」






 残り1時間12分15秒


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