おれをあんまりなめるなよ 中編
なんなんだ一体。俺は一体何をすれば…
なーんてな。悩んだってしょうがないことは分かり切っている。なんたってもう時間はえーと…1時間と19分か。やってやるぜ。
ジャスティス。お前の正体がわかったよ。
ただのガキだ。
神様だったからなのか見透かされているような雰囲気を纏っていたけれど、自分で化けの皮を剥き始めた。なんだあいつ急に煽り散らかしやがって。ヤク中の精神異常者はもっと丁重に扱え。
ジャスティスはもうあんまり頼れないな。自分から何とかするしかない。
「やるよ、セントウ。俺に力をくれ」
「…分かった……」
セントウは嬉しそうな素振りもせず頷く。
そしてしばし俺を見つめる。すると徐々にセントウの姿が元に戻っていく。もしかしたら、いざとなったら俺を脅すために変身したのだろうか。
「………」
「…おかしい……」
何がだ?
「……あなたに魔力は全て流移した………でも…ドラゴンの啓者としての権限が……まだ…わたしに残ったまま…」
「それってどういうことだ?」
「純粋な力はすでにあなたのもの…になったんだけど……ドラゴンとはリンクすることができない」
俺は手を思いっきり握りしめてみる。特に何か変わったとは思えないのだが…。
「器がないから魔力を行使できない……それは今わたしが持っている状態………」
ソフトウェアとハードウェアみたいな関係か。それで何らかの不具合が起こって俺とセントウがそれぞれ一つずつもっている…。
「…器は潜在魔力を譲渡できても、外部の魔力を制御することはできない…」
「元に戻すことはできないってことか」
「そう…」
セントウは目を伏せ、頭から生える鋭利な角を左手で掴む。震える拳の中から血が流れ、前腕を伝い、曲げた肘の先から滴り落ちる。
「じゃ、じゃあ一緒に行こう」
「………」
「二人で一人って感じだろ?なんとかなるんじゃないか?」
何支離滅裂なこと言ってんだ俺。
セントウは俯いたままだ。
俺は今どんな顔しているのか。多分歪んだ笑顔を見せているだろう。突然のセントウの動揺にどうしたらよいか分からなかった。
「…無理……」
「何か手はないのか?」
「…そうじゃない…わたしがドラゴンに会いたくないの……」
「はぁ?ドラゴンってそんなに怖いのか?」
「……怖いのは…わたしに価値が…なくなること……」
「それってどういう…」
「ドラゴンと巫女は元々一つ…ドラゴンは巫女を求める…でも決して融け合うことはない…神の壁は越えられない…わたしはただの飾り……」
「一度会ってくれるだけでいいんだ。それで通行許可とやらはおりるんだろ?」
「ドラゴンが怒っているのは事実…そして何より…」
セントウの声に若干震えが入る。
「彼は…わたしを必ず失望した目で見てくる……」
それが理由…?
「…そう…わたしは耐えられない……」
前会ったときはどうだったんだ?
「…一度も会ったことは…ない……」
…はぁ?
「…わたしとドラゴンの心は常につながっている…彼のわたしへの想いが積もるほど…彼の前に立ったとき…わたしは彼を絶望させる……」
風が一層強く吹き荒れる。固い地面の表面の砂を巻き上げ、景色を茶色に濁らせる。
「だから何だよ!」
「……」
「失望されたらなんだっていうんだ!」
「…わたしたちはドラゴンを信仰してるの…その意味が分か」
「うるせえ!!」
「………」
セントウが顔をあげ、俺に向き直る。
「自分で言いたかないが俺はとっくにいろんな奴らに失望されてんだよ!家族、親戚、同級生、同僚。…今までそれなりにあった人望だが、俺にはもう何一つ残ってもない。けどなぁ、ここに来て気づいたんだ。俺が求めてたのはただの他人の評価だったってことにな」
「………」
「お前も同じことさ。ドラゴン様の期待はそりゃとんでもないプレッシャーだろうが、それで自分の価値が押しつぶされる錯覚に陥っているだけなんだ」
「………」
「あのさ…」
「………」
「もしドラゴンに失望されて、それでほんとに終わると思うか?」
「…?」
「お前、誰かと話したことあまりないだろ」
「……」
「意図せず人を怒らせちまったり、自分の動揺に気づいてもらえなかったり。でも恥じることはないと思うぜ。これから、理解できていくんだ。心を通じ合えるのはドラゴンだけじゃない」
「………」
偉そうに説教してしまった。出会って30分も経っていないやつに。俺は本当に浅はかだ。でも自分の考えははっきり言えた。嘘はない。
「…変れるの?わたし…」
「ああ」
残り1時間16分09秒
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