おれをあんまりなめるなよ 前編

 セントウは異形の姿のまま俺に近づいてくる。


 なんなんだこいつは。巫女っていうからには白装束でお祈りのポーズなんかして「神の声が聞こえる…」みたいな感じだと思っていた。だが目の前にいるのはB級バイオホラー漫画に出てきそうな化け物だ。夜に出てきたら失神する自信がある。


 セントウは腹から生える腕で俺の肘辺りを掴む。意外にも柔らかな感触だ。




「あなたに……力をあげる………」


「力…?」


「そう…あなたが今最も必要なもの……」


「いらねえよ」


「…自由に空を飛び……連岳を砕き……他者の命を蹂躙する………あなたは……ほしくないの……?」


「だからいらないって。なんで俺が?なんで今更?」


「虚徒に知られては……まずい………」


「虚徒?ん~~…もしかしてジャスティスのことか?」


「……そう…」




 俺のカンってなかなか鋭いな。セントウはジャスティスに何も話したくなさそうだったし。




「あなたには潜在魔力が一切ない……でも…『アタツネ』とは違って…魔力は流れる………」




 マジかよ。自分で魔法使えないのか。




「…私の魔法属性は……アンチドラゴンレート…他の属性とは…反発してしまう……」


「アンチ…ドラゴン……?」


「ドラゴンであって……ドラゴンではない存在……あなたになら使える………」


「それで?俺に何をしてほしいんだ?」




 セントウは俺の顔を覗き込む。三つの眼がさらに見開ける。




「どうしてもらっても構わない……ただ……私が力を…あげる……」


「どういうことだ」


「私にはこの力は…枷でしかない……私は…解放されたい……」


「はぁ…」


「…そうすれば…あなたはドラゴンに認められ……かの地にたどり着けることができる…」


「なんだそれ。さっきはドラゴンに会っても意味はないって言ってたじゃないか」


「…虚徒にドラゴンを会わせてはならない…ドラゴンは虚徒を憎んでいる……」




 ドラゴンがジャスティスを?それをなぜジャスティスに説明をしない。




「…虚徒は……危険………」




「…あなたは…一人で…ドラゴンと会って……」




「そして……選択して…何を信じるかを………」




 ____________






「ドラゴンの巫女はどこに行ったのですか!?」


「わかりません…我々の目を盗み、トータルさんの結界をすり抜けるとは…」


(ドラゴンの巫女は唯一無二の魔法属性を持つの。魔法を使われてもサンプルパターンがないから痕跡が一切見つけられないんだよねー)


「はぁ、もうどうでもいいわ。肝心のあいつもどっか行っちゃったし。トータル、私も降ろしてもらっていいかしら」




 ジャスティスはうつむき、額の肉をつまんで顔を歪ませる。




「それは許しません…あなたにはまだ役割があると言ったでしょう」


「あのさぁ、私はあんたの従者じゃないのよ。私はあんたが面白そうなことしているのに興味を持っただけ。そしてめんどくさくなったら降りることにしてるの」


「世界が滅ぶということは貴方も死ぬということですよ」


「どうでもいいわよそんなこと。カオルから自我をもらって世界に愛着がないこともないけど、未練はない。私は人間とは違って潔いの」


「それでは困るのです。それでは…」


「ふっ、やっと子供らしくなったわね。自分の都合どうりにいかなくても、自分の都合しか主張できない。あんたそっちのほうが年相応で可愛いわよ」


「………っ」


「あら~、泣いちゃって」


「これは思春突入期の感情バランスが不安定なだけです。深層情緒は常に冷静です」




 ジャスティスはソードを涙を流しながら睨みつける。




「ジャスティス様…あなたはまだ11歳なんですよ。一人で抱え込むには無理があります」


(私からもお願いするよ~。ジャスティスちゃん、本当は何をしようとしているの?)




 さらに咽びながら、ジャスティスは歯を食いしばる。




「…………」




「…駄目です…」




「私は…戻らなければならない」






 残り1時間18分20秒


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