さんどいっち
『成程。汝は世界を信じるというのだな』
うん。今私とあなたの心は繋がっているんでしょ。私の気持ち、分かるよね。
『……今まで我は自分の苦悩を自分だけで解消しようとしてきた。我はあの奔放な魔人の娘の名前も知らない。我の苦悩を取り除くのに必要ないと思っていた』
でも違う。一人じゃ一人を助けられない。
『自分は自分だけではない。他者の中にも自分は存在していて、そのすべてを束ねて、初めて完璧な個人と言えよう』
多分それは無限に広がっている。束ねて完璧になることなんて出来ない。だから必要なんだ。自分を見てくれる誰かが。虫食い穴だらけを自分を支えてくれる誰かが。
『我は余計なものを装い過ぎた。誰も私の姿を見れないほどに』
じゃあ捨てよう。この際。
『汝。まさかこの為に…』
?
『ふっ、出来過ぎた偶然だな』
アストラエル、手を。
『ああ』
…手、あったかいんだね。
『生きてるのだ。当たり前だ』
生きてる?天使は生物なの?
『そうだ。天使も女神も生きている』
…私ってなにも知らないんだね。
『我も汝を何も知らない』
ふふ、一緒だね。
『一緒だ』
それじゃあ行こう。
『ああ、戻ろう。弱者だらけの退屈な世界に』
あなたの魂、私が預かる。その縛られた体から引きはがしてあげる。解き放たれた心で私たちの世界を見よう。
景色がねじ曲がる。
赤は恋に。黒は筆に。混ざり合って衝突する色はやがて亀裂を積み生み出していく。
叫び声は絵に。足音は鋏に。融け合って収縮する音はゆっくりと型からはみ出していく。
土の匂いはカードに。血の匂いは財布に。こすれ合って共振する匂いは意味を作り出していく。
苦味は罪に。甘味は鎧に。押し付け合って静止する味は罰を滲み出していく。
痛みは快楽に。肌の心地は本に。飛び掛かり合って爆発する感触は激情を飛び散り出していく。
虚無の戦場は壊れだす。時に激しく時にゆったりと。時間の感覚があやふやになっていく。その光景は今までに見たことのない奇妙だった。何もかもがごちゃごちゃになって、確実に崩壊が進行していく。
照らす闇。覆う光。
曲がるガラス。割れる鉄。
晴れ渡る地面。支える空。
夢を穿て。
現を放て。
「私はあの世界にいたい!!好きなんだ!!」
目の前は真っ暗になった。
戻ってきたんだ。元の世界に。日が一切入り込まない地下。
しかし次の瞬間、視界が急に色めきだす。足元の母石が激しく発光しているのだ。
そして体がふわりと浮く。
『母石は本来万物を最小単位で一つずつ引き付ける。だが我らは今、魂がオーバーヒートし、反作用が働いているのだ』
心に直接アストラエルの声が聞こえる。彼の姿は見当たらない。
『素晴らしい光景だ…』
彼の声が閉じてゆく。
「そうだね…」
彼女の声が閉じてゆく。
その体はだらんと糸の切れた人形のように力が抜ける。そして母石に引っ張られ降下する。
体が母石に叩きつけられる。もう飛び散る血も残っていない。
アルティメット・ランキング
年齢 16歳 身長 155cm 体重 176kg
死の計約との戦いにおいて65か所の擦り傷、21か所の刺し傷、156か所の骨折。右目、右腕、左手と両足の全ての指を失う。出血量は約41L。
心臓を完全損傷したが、アストラエルの魂を取り込み、時空の歪みを解消する。
残り1時間25分12秒
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