不調和
アストラエルは両手で槍をかまえ、私に歩み寄ってくる。
その槍は穂が片刃しかなく、口金には小旗や宝石などが装飾しており、実戦用ではなく祭事に使われそうなものだった。
不死の能力自体も消えないだって?だったら無敵じゃないか。
しかし私は彼を殺さないといけない。あきらめちゃだめだ。絶対何か道はあるはず。
ではどうすれば?魔法などで不死を取り除くことができるのだろうか。でもそもそも私は魔法は使えない。
『汝の運命、この槍に委ねてもらおう』
アストラエルは槍を振るい、私の眉間を狙う。私は態勢を崩しながら、かろうじで避ける。
さらにアストラエルは攻撃の軌道を変え、のけぞる私の腹を狙う。
私は槍の太刀打ち部分を左腕で押さえ防ごうとするが、しばし互いに硬直したのち私は押し負け、仰向けに倒れ込み、アストラエルにのしかかれる。
アストラエルは素早く槍で私の頭を衝く。だが、私は槍の穂に噛みつき、槍を防ぐ。アストラエルもさらに槍に力を入れ、頭を貫こうとしてくる。
『っ…!』
「あがあぁぁぁ……!!」
その間も私は左腕でアストラエルのみぞおちを殴り、膝で背中を蹴り続けるが、アストラエルは一向に退かない。
顎の力も限界に達してきたころ、アストラエルの体がだらんと倒れ込む。背骨が折れたようだ。すぐに再生するだろうけれどこれで槍の力は緩み、アストラエルの下から脱出する。
背骨が再生したのかアストラエルは立ち上がろうとする。私はそうはさせまいと私の腰ほどの高さに彼の頭が達したとき、彼の頭を思いっきり蹴飛ばす。
目玉と頭蓋が飛び散り、彼の体は地面に叩きつけられる。今度は彼の腹を蹴る。あばらが折れた感覚があった。
さらに腹を踏みつける。血と内臓が飛び散りやがて彼の上半身と下半身が完全に分離する。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
私の荒い息遣いだけが辺りに響く。息をするたび、全身に激痛が走ることを今になって気づいた。
すぐにアストラエルの体が再生してくる。槍を持ち、立ち上がる。
駄目かもしれない。
アストラエルにその気の隙を察知されてしまった。
気づけばアストラエルの槍が私の胸を貫いていた。
_________
「こんなことしても…あなたたちは…ドラゴンに許しを得ることはできない……」
今俺たちはトータルさんに乗って移動中だ。そしてドラゴンの巫女だというセントウが半透明の縄に縛られて乗っている。ジャスティスがカオルに命じて拘束したのだ。
村から連れ出すとき、村人たちは何も言わなかった。気のせいかカオルの方を見て納得したような顔をしていた。
「しかし貴方と共に入り口に行くだけでドラゴンに会えるのでしょう?何も問題はありません」
「………」
「それよりも先の予定の話をさせてくれませんか。ドラゴンの許しをもらった後も貴方にはやってもらうことがあります」
「先なんてない……」
「や、やってみないと分からないじゃないか!」
思わず口をはさんでしまった。
「なんでそんなに簡単にあきらめてるんだよ!世界がなくなっちまうんだぞ。今こそ全世界が力を合わせなきゃいけないだろ!」
「マサヨシ様はこの件に出番はありません。余計な口出しで場を混乱させないでください」
ジャスティスがセントウに詰め寄る俺に冷たく言い放つ。
口出しするなだと?かちんときてしまった。
「お前はディーラー気取りでカードを切っているつもりなんだろうが、こっちは必死なんだ!いいよな神様は。世界の一つや二つなくなっても気楽そうだ」
「私は今は貴方たちと同じこの世界の生命体の一つにすぎません」
「どうだかな。お前の不審な点なんていくらでもあるんだぜ」
「信頼しろなんて言いませんが、貴方は私の計画に乗るしかないと思いますよ」
「あのな……」
「その辺にしてくれないか」
今にもジャスティスにとびかかろうとする俺をカオルが押さえつける。
「俺はわざわざ見ず知らずの世界を救ってやろうとしてるんだぞ!なのにお前は肝心なことは喋らない。そんな奴にホイホイ言いなりになってたまるか」
俺はカオルを振りほどく。そして、トータルさんが展開している魔法の壁を叩く。
「トータルさん、おろしてくれませんか!?」
「ちょっとアンタ本気!?」
ソードが驚いて声を発する。そして後ろからジャスティスの小さな声が聞こえてくる。
「…これだから薬物中毒者は。精神が不安定で困ります」
は……?今なんて…?
「せめて3時間はもってくださいよ」
残り1時間25分21秒
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