黒い翼
上空から何かが落下してくる気配がした。いや、それは意思を持って急降下しているようだった。地面に激突し、粉々に砕いていく。
私とそれはさらに奈落に落ちる。一体私は地表からどれくらい深く落ちたのだろうか。日の光など全く届かない。
やがて不思議な空間に出る。足元の果てが見えないほど巨大な宝石のようなものが辺りを照らしている。地下にはこんな場所があるのか。
だが、この風景に見とれる暇もなく、体の異変に気づく。体が地面に吸い付きそうなほど重い。頭に血がいかないのか意識がぼんやりする。
私と一緒に落ちてきた物体は黒い翼を広げて言う。
『ここは〈源檻の帳〉、足元にあるのは母石だ』
母石。重力の源とされている世界最大の魔法石。噂程度の認識だったけど実在するのか。
『ここならば誰も邪魔する者はいない。さあ、始めようか』
アストラエルは翼を機動力に私に突撃してくる。一方私は重い体を動かせず、避けることはできない。
私は指のない左手でアストラエルの拳を受け止める。アカラに比べれば、何倍も非力だ。
アストラエルがにやりと笑う
『もはや恐怖だ。首から大量の血を流し、全身の骨を砕かれ、右腕を失い、左手と右目を潰され、体中肉を削がれて骨がいくつも見えている。それなのに生きている。それどころか我が攻撃を物ともしていない』
私にはそれは不思議ではなかった。だってこの闘いはとても楽しいから。後のことはどうなっても構わないって思えるほど。
「ほめてくれるのはうれしいけど、この闘い、勝つのは私だから」
私はアストラエルのみぞおちに蹴りを入れる。アストラエルの体に私の足がめり込み、腹の半分はえぐられる。
足を引き抜き、アストラエルの腕に噛みつき、顎の力でアストラエルの体を振り回す。やがて地面に叩きつける。
足元の母石は信じられないほど固く、彼が激突すると彼の体が床に叩きつけたトマトのように肉片と血が飛び散る。母石はヒビが少し入った程度だった。
なんだ。あっけなさすぎる。
だが直後、信じられないことが起こった。
彼の黒い羽根が意思をもっているかのように宙を移動し、肉片を一か所に集めている。そして集まった肉片がドロドロと黒い液体を大量に分泌しつつ、肥大化していく。
そしてそれは手や足を生やし、人の形になる。
それは全くの無傷のアストラエルだった。
『我は死を司る天使の座を離れ、不死を司る堕天使となったのだ』
不死だって?どうやって倒せばいいんだ。再生する様子を見ていても、核となる物もなさそうだった。
『さあ、続けよう』
アストラエルは私に歩み寄り、再び私を殴りつける。先ほどより速い。反応できず顔面に激突し、首が後ろに曲がる。
だがここで退くわけにはいかない。私もアストラエルの顔面を殴りつける。
「だあぁっ!!」
アストラエルの頭は首を離れる。しかし彼の黒い翼から羽根が飛び散り、その無数の羽根がアストラエルの頭をキャッチして、首の上に持っていき、首と頭の間から黒い液体があふれ出す。それが接着剤となっているのか頭と首が完全につながる。
「くそぉ!!」
私は彼をさらに殴りつけ、腹や足を蹴りでえぐっていく。
だが彼は負傷したそばから黒い羽根が再生させる。
彼もまた私への攻撃の手を緩めない。むしろ攻撃の速度も威力もどんどん増大している。彼の攻撃を受けるたび血が飛び散る。
『再生とは進化。一度壊れた体はより強固な体へと変貌しようとする』
つまり再生すればするほど強くなるのか。ならばいたずらに攻撃するのはよろしくない。サンダトーンの時と違って、このまま攻撃をしても意味がないことは明らかだった。
待てよ。アストラエルは常に黒い翼を使って再生している。その翼がなくなると再生しなくなるのでは。
早速アストラエルの肩を掴み、何とかうつぶせに寝かせる。
そして背中の翼を付け根から引っこ抜こうとする。左の翼は顎で、右は足で翼を地面に押し付けながら。
思いっきり力をいれると、すぐに両翼を引き抜くことができた。付け根から血が噴き出し、翼はしおれていく。
勝った。私は左手で彼の頭を潰す。
だが次の瞬間、彼の上半身がゆっくり起き上がる。どうやら彼の腹から槍のようなものが突き出てきているようだ。
彼の腕が動く。槍を引き抜き、槍を振り回して馬乗り状態の私を追い払う。そして彼は立ち上がる。そして首の断面から黒い液体を噴き出しながら頭が生えてくる。
『翼は我が能力の象徴に過ぎない。象徴がなくなれば次の象徴が生まれ出る。』
何それ…。
『つまり不死の能力自体も不死なのだ』
__________
「ドラゴンは…今すごく…怒っている……」
「それは知っています。しかし私たちは今すぐ『無量の地』に行かなければならないのです」
「けど…ドラゴンの許しは絶対に…得られない……」
「そんなことはありません。そのための鍵を私は持っています」
知らないワードが出てきた。無量の地?そこに魔王城があるのだろうか。
「そもそも世界が滅んだらドラゴンはいなくなるのですよ?」
「ドラゴンの安否を…心配するなんて…おこがましいこと……むしろ…ドラゴンと共に…消えてなくなるのは…本望……」
ジャスティスは一瞬顔をゆがめる。そしてしばしうつむき、数秒後顔をあげセントウの目を見つめながら言う。
「ならば同行は望みません。連行します。何としてでも私は前に進みます」
残り1時間30分02秒
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます