握りしめたい拳もない

アカラの光輪と謎の模様の光がガラスのように割れる。そしてその光はアカラの一番大きい触手に纏わりつく。


 辺りが地震のように揺れる。そしてアカラは私を見据える。




『アルティメット、汝に感謝する』




 なんのこと?




『我には友がいた。その友は我を守ってくれた。醜く弱い我を。しかし、醜く弱かったのはこの姿だけではなかった。我は友を自ら手放してしまった』


「……」


『我はもう一度友に会いたい。必ずこの世界の終着点にいるはずだ』




 会ってどうするの。その友達ってあなたが殺した天使のことでしょ。土下座でもするの?




『謝罪などしない。わが友はそれを望まない』




 じゃあどうするの。




『何もしない』




 え?




『話す必要も触れる必要も見る必要もない。ただ相互に認識し合いたいだけだ』




 そんなんでいいの?




『それはとても幸福なことだ。今は誰もそのありがたみは分からない。だが近い未来、この世界は平和と便利にあふれる。すれ違う者に危機意識を持たず、一切の関心すら持たなくなる。やがて近しい友人や家族ともわかり合うことを拒む。心の壁が肥大化しすぎて、己の魂は見えなくなるほど小さく圧縮されてしまう』




 魂の圧縮…




『そうだ。他者を拒んで己の魂を守っているはずが、逆に魂を押しつぶす。そんな未来では互いに分かり合うことなどできるはずがない』




 未来の世界…考えたこともなかった。




『だが汝は未来の希望になる』




 希望?




『そう、希望だ。汝は我らに覚悟と力を見せてくれた。しかし汝は特別な存在ではない。誰もが待っているものなのだ』




 誰もが持っている…




『我は誰もが己の主張、生き方、愛する心を堂々とさらけ出す日がいつか必ず来ることを汝を見て確信した。そうすれば終着点など探さなくても我と友の魂は触れ合うことができる』




 アカラは光を纏った触手を天に掲げる。




『我はその日まで生き抜く!勝つのは我だ!』




 アカラが触手を振り下ろす。


 その光は拡散しながら私に襲い掛かる。避けることはできない。




 気づいたときには、振り下ろされた触手を左手で受け止めていた。




「ぐうぅ……!とまれえぇぇ……!!」




 アカラの攻撃の衝撃波で辺りの壁がえぐられていく。足場も崩れていき、さらに底に沈んでいく。




 勝つんだ。後はどうなっても構わない。なんでかな、この魔物には絶対に勝たなきゃならないと感じる。世界の存亡がかかっているからじゃない。自分の魂が勝ちを今までにないほど欲しているんだ。




「があああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




 アカラも落雷のような叫び声をあげる。


 彼はここで決着をつけようとしているんだ。




「さっき私が希望だって言ったよね!!」




『そうだ!我は未来を信じる!』




「だったら私も信じて!私自身が未来を創る!!こんなところで負けられるかあぁぁぁ!!!」




 ありったけの力で触手を押し返す。




 バキイィィィンン!!




 その時光も触手も粉々に砕け散る。押し勝ったのだ。




 アカラは地に沈む。




『素晴らしい…汝がその未来…我の代わりに見てきてくれ…。いや、汝は創るんだったな…』




 私はアカラに歩み寄り、アカラの頭を足で潰す。完全に息絶えたようだった。




 アカラは少し前この闘いの勝敗が見えているといっていた。アカラはもしかして生死のことを言っていたのではないのかもしれない。


 彼が私に希望を見いだせれば闘いなどどうでもよかったんじゃないか。




 左手はぐちゃぐちゃに潰れ、指の一本もなかった。




 _________




「どうも……こんちは……わたし…ドラゴンの巫女のセントウ……」




 建物の中にいたのはナイフのような角を4本生やした黒髪の女性だった。マイペースでおっとりとした口調。人によっては苛つきそうだ。




「初めまして。ジャスティス・アーケルドです。村長から話は聞いていますね。同行願います」




 ジャスティスは苛ついてるようだった。




「えぇ……いや……」




 まじかよ!?


 ジャスティスは隣にいる俺にしか聞こえないくらい小さく舌打ちをする。なんだかこいつの「予定」とやらが段々ガバガバになってきた。




「理由を聞かせてくれませんか?」






 残り1時間31分15秒

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