天使を殺したムカデ

 引きちぎった触手は地面に落ちる。私は素早く触手を伝ってアカラの背中に乗る。


 しめた。胴体から触手をもぎ取ることができる。さっきまでの必勝パターンだ。私は早速触手の付け根の筋肉をはぎ取り始める。


 ぐちゃぐちゃと音を立てながら、触手が次々と地面に落ちていく。




 アカラは耳鳴りのような悲鳴をあげ、身を震わしている。






 十数本取れたころ、アカラの頭の光輪が直視できないほどの光を発し始めた。




「眩しい…」




 目を開ければ、いつの間にかアカラの体を離れ、アカラの目の前の地面に立っていた。


 何をされたんだ?吹き飛ばされたような痛みもなかった。




『我は天使の座を奪った。魔族であり天使なのだ。光と闇、決して交わることのない存在は我を特異点として融合した』




 だからどうしたの。




『二対の未来を背負っているのだ。汝の覚悟に負けるはずがない』




 光輪がよりいっそう強く輝く。真っ暗のはずの地下はもはや目を閉じていても焼けるように痛い。




「うう…何これ…」




 その瞬間、右腕の感覚がなくなる。


 いや、右腕自体が肩からなくなっている。




「いったあぁ…」




 すでに体中が痛かったのでこれくらいしか感想が出ない。それより今のは触手攻撃か。また的にならないように動き回らなければ。私はメチャクチャに走り回る。


 やがて光輪の光が弱まり辺りの様子が見えてきた。それは自分の目を疑うような光景だった。いや正確には、おかしかったのは自分自身の方。




『我が天の力は空間を操る』




 私の視界が半秒ごとに次々と変わっている。つまり、私の体が連続で瞬間移動し続けている。




 足を踏み出そうとするもすぐに強制移動させられる。これはどうすれば…


 突然左太ももから血が噴き出る。アカラの触手攻撃を受けたのだ。




 だが驚いたことに私を攻撃したのは引きちぎったはずの触手だった。なんとか辺りの状況を確認してみると落としたはずの触手があちこちで飛び跳ねている。


 アカラの方を見ると、落とした触手の付け根から、ぬめりけのある新しい触手が生えてきている。




 あの時抵抗しなかったのはむしろ自分に有利になるとわかっていたからなのか。




 飛び跳ねる触手が私に次々と襲い掛かる。避けようとしても次の瞬間には全く違う位置にいて、他の触手がとんでくる。


 何とか急所は外せるが、触手は私の体を着実に削っていく。左手の指は三本になり、右目は潰され、肉を削がれたお腹はあばら骨が見えている。






 まだだ!!ここで負ければジャスティスさんの覚悟は無駄になってしまう!


 確かにあの人はすべてを語ろうとしなかったけど、私のありかたを認めてくれた。それだけで私の諦めない理由に十分だ。




「アカラ!この闘い、あなたの予想と違うものになる!!」




 足に力を込める。半秒あれば十分。




「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




 地面を思いっきり蹴り、アカラに一直線に向かっていく。瞬間移動してから次の瞬間移動まではインターバルがある。その間にアカラの胴を引き裂く!


 私の体はアカラに近づき、左腕を振り下ろす。




 アカラの体はあっさりと真っ二つに裂けた。胴体はもろいのかと思ったが、そうでもないようだ。私の攻撃の衝撃で地面が崩れ、アカラと私は再び奈落に落ちていく。




 やがて底に激突する。先ほどよりは浅かったようだ。




「アカラは!」




 後ろを向くと、アカラはちぎれた頭がある方の胴体を頭を軸にして宙に浮かしていた。


 やがて頭の上の光輪を中心に不思議な模様の光が出現する。




『天死魔法…』




 まだ何かあるの…?




『ゼウスコール』




 _________






 村長に案内されたのは一つの家屋だった。




「中で巫女様がお待ちです」




 その時、ジャスティスが俺に耳打ちする。




「現ドラゴンの巫女は繊細な方です。失礼のないようにお願いします」






 残り1時間34分31秒


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