むしのしらせ

 あと二匹。残るは大ムカデのアカラと黒い翼をもつアストラエル。アストラエルはいまだ上空から降りてくる様子はない。攻撃してくる様子もない。するとやはりアカラを先に仕留めるのが妥当と思う。それに先ほどアカラの触手でお腹に穴をあけられたが、あの攻撃を先に対処しないと。


 あの攻撃の前にアカラは触手を奇妙にくねらしていた。もしかしてあの攻撃をするには初動作が必要なんだろうか。そうであるならば、一気に懐に潜り込んで、ケリをつける。




 そう考え大地を踏み込んだ瞬間、右頬の真横の空間が消し飛んだ。アカラの例の攻撃だ。私は直感で首をかしげて、何とか避けていた。速すぎてほとんど見えなかった。後方ではここからだいぶ距離のある雪をかぶった大きな山が跡形もなく蒸発している。


 どういうことなんだ。初動作も無しに攻撃してきた。それに速さも威力も段違いになっている。




『我は流術を極めし者。万物の行く末は初作で決まる』




 流術?聞いたことがある。宗教に近い雰囲気を持つ格闘術のイメージ。初めの行動で物事の流れを制御できるという教えらしい。


 少し前のアカラの行動を思い出す。奇妙な踊りをしていたが、あれは攻撃のための初動作で、その初動作を貯蓄することができたのか。だからノーモーションでの攻撃を可能にしている。


 先に相手をすればよかったか。でも後悔している暇はない。結局私は突っ込んでいくしかないのだから。




『この闘いの勝敗はすでに我には見えている』




 私は地面をジグザグに駆け抜けながら、アカラへの接近を試みる。アカラは私に攻撃を仕掛け、一本の触手が背中をかすめる。その触手は地面に突き刺さり、地下を内部から壊していき、辺り一帯の地面がものすごい音を立てながら崩れ落ちていく。アカラも私も奈落に落ちていく。


 落ちながらもアカラは触手の矢を放ってくる。体をくねらし避けようとするが何発か被弾してしまう。




「ぐぅ…」




 体のあちこちから血が噴き出る。やってられない。私はアカラの動きを観察してみる。どんなに戦闘を極めても所詮は生き物なんだ。


 そして、注目していた触手がピクリと動く。




 これは見切れる!




 私はタイミングを合わせて体をひねり触手をかわし、伸びきって硬直した触手にしがみつく。アカラは動揺したのかその触手を振り回す。ざまあみろ。アカラはこのまま底に叩きつけられるはずだ。私もだけど。




 一分ほどしてようやく底の気配がしてきた。このまま激突すると思ったが、アカラは不思議な動きでふわりと着地する。これも流術なんだろうか。


 私は以前触手にしがみついていた。アカラはゆっくり私を自分の目の前に持ってくる。辺りはアカラの頭の上に浮いている光輪が照らしている。




『汝、名を何と言う』


「ア、アルティメット・ランキング」


『アルティメット、汝はこの世界の住人である我々が何者なのか考えたことはあるか』


「急に何を…」


『我は未来を探求している。自分の最後に行きつくところを知りたいのだ』


「最後?」


『そうだ。この世界の生命の活動は誰のためにあるのか。この体に魂を授けられた時から考えてきた。だが考えれば考えるほど、終着点が遠のく気がしてならない』


「なんでそんな話を?」


『魂を開放した汝ならば何か見えているのではないかと思ったのだ』




 思わずきょとんとする。もしかして、アストラエルにこの人生相談を聞かれたくなかったから、わざわざ地下に落ちたのか。意外とかわいいとこあるんだなぁ。




「私はそんなことわからないよ。終着点が小さすぎて気づかないうちに通り過ぎちゃったんじゃないかな」


『面白いことを…もしかしたらそうかもしれないな』


「そんなことより目の前の触手が引きちぎられたことに関心を持ったら?」




 _________




 獣人の村とやらは木と土の家屋の集まりだった。人口は1000人もいないんじゃないか?村の入り口にトータルさんは着地し、俺たちも降りる。


 牛の角を生やした老人が出迎える。




「ジャスティス様ようこそおいでくださいました。そちらの皆さんははじめまして。村長のダンです」


「こちらこそよろしく」


「さっそくですが殿屋に案内します。ついてきてください」




 村長はこちらに背を向け歩き出す。俺たちもついていく。村の中には獣耳を生やした者と角を生やした者がいた。共通しているのは服装は恥部をぎりぎり隠せる程度の布しか羽織っていないことだ。彼らは珍しいのか俺たちをじろじろ見ていたが、完全全裸のソードに過剰反応していない。


 俺はジャスティスに色々聞いてみる。




「獣人はこれしかいないのか?」


「いいえ、ほとんどの獣人は奴隷になっていますね。身体能力が高いので肉体労働に重宝されています。他にも村はありますが、この村が一番規模が大きいです」


「胸糞悪い話だな」


「獣人は数が少ないですからね。なにより彼らは魔法開発が一切進んでいなかったのです」


「獣人は魔法が使えないのか?」


「そんなことはありませんが、ただドラゴンの信仰を守れる生活ができればよかったみたいです」




 俺は今一番気になっていることを聞く。




「この村に何の用だ?村長さんは事情を知っているみたいだけど」


「ドラゴンの巫女と合流します」






 残り1時間36分23秒

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