疑神暗鬼
(少し前、王都に魔獣が攻めてきたじゃん?なんでだと思う?)
(えと…儀式の影響で魔獣が活性化したとか…)
(なんでわざわざ王都に?)
(なんでって…そりゃ…)
(ウチは君と会う前、ジャスティスちゃんから魔獣が攻めてくることを教えてくれた。でもその理由は聞いても教えてくれなったの)
確かにあいつはかなり怪しい。あと2時間足らずですべてが終わるというのに俺は限られた情報しか与えられてない。ジャスティスに聞きたいことは山ほどある。
(おかしなことはまだあるの。ウチ、君の杖は貴重なものだって言ったよね)
(ああ、そうですね)
(あれ、杖に埋め込まれている宝石が貴重って意味なの。セルストーンって言って、魔法を記憶して任意のタイミングで発動できるシロモノ)
(え…)
(そう、あの杖自体に魔物を呼び寄せ合体させる力はない)
(じゃあ、ジャスティスが一人でそれをやったっていうことですか?)
(ウチはそう思う)
ジャスティス・アーケルド。幼女の見た目して王国騎士長。一体何者なんだ?
(しかもあの時ジャスティスちゃんは魔法を使っていない)
(ど、どういうことですか?)
(瞬時にそんなことができる者がいるとすれば…)
その時、目の前に灰色の巨大な物体が飛び込んでくる。カオルが手をかざし、魔法で衝撃波を出して物体の軌道をそらす。
「ワイバーンか!」
「ここら一帯は飛行型の魔法動物最大の生息地です。巣を守ろうとして攻撃してくるのです。まだまだ来ますよ」
魔物と魔法動物とやらは別物なのか。
「ええ、魔法動物とは魔力を生命循環のエネルギーにしている動物。その中でも魔王からの魔力を持っているものを魔物と呼びます」
俺とジャスティスを王都まで運んでくれたワイバーン、ワンタンは別に魔族でもなかったのか。安心した。
カオルは突撃してくる異形どもを魔法で次々払いのける。全然心配なさそうだ。
_________
首の流血は止まっていた。自分でも生きているのが不思議だ。でもこんなところで死ぬわけにはいかない。私は今、未知の感覚を味わっている。恐怖というものなのかもしれない。目を一秒でも閉じればそのまま永遠に眠ってしまうかもしれないという恐怖。
けれど私はそんなことはしない。してたまるか。目の前の怪物たちを先に眠らせるまでは。
『どうだ!楽しくなってきただろう!これが闘い!生命の輝き!天使のままでは決して感じることはできなかった!!』
不思議なことに私はこの時を楽しく思っていた。確かに恐怖はあるけれど、だからこそ崖っぷちのスリルが楽しいのだろうか。
そしてジャスティスさんはここまで計算どうりだったんだろうか。人間以外を殺せない私が闘いのスリルに惹かれること。いや、そうでもないかもしれない。ジャスティスさんは私に賭けただけだと思う。兄の賭け事話を思い出す。ギロチン糸切の話を聞いたことがある。数人がギロチンに首を突っ込み、複数のつるされた糸の中に一本だけギロチンの刃を支える糸が存在する。糸を参加者が順に切っていき、耐え切れなかった者は首を抜く。どこまで首を入れておけるかという賭け事だ。まさに命を賭けている。ジャスティスさんは私に自分の、いや、全世界の命を賭けている。
ジャスティスさんは私に賭けた。だから私は私に賭けることができた。
『覚悟ある者よ、汝に敬意を表し、我の力の全てを見せよう』
サンダトーンが蒸気を兜の間から吐き出しながら言う。
すると彼の鎧が黒く変色する。そして直線的な棘が体中からめり出す。トータルさんのような質感だ。
『世界最硬の魔法石タクトラスの鎧だ。素手で挑む者は汝が最初で最後だろう』
「あなたの自伝には興味ないよ」
私はサンダトーンに突進して、懐に潜り込む。やはり鎧のせいか素早くはないようだ。
そして鎧に拳を入れてみる。
「ぐぅっっ!!」
『貧弱な拳だ。そんなものが効くはずなかろう』
右手の骨が何本か折れたのか思わずうめく。
今度はサンダトーンが私より大きいハンマーを振り回してきた。避けることは容易だったが風圧で体が吹っ飛びそうだ。一撃でも貰ったら次こそ命がない。
反撃をくらわすこともできたが、さっきのでダメージが期待できないことを思い知った。避けながら私は辺りを観察する。敵はこの鉄人形だけじゃない。アストラエルは上空からこちらを眺めている。アカラは奇妙な行動をしている。胴体や触手をゆっくりとくねらし、踊っているかのようだ。
その瞬間、ハンマーが一気に迫ってきて、サンダトーンのフルスイングの餌食になる。
馬鹿な。辺りに気を配っていたが、決して目の前の攻撃を読み間違えることはしていない。
まさか、先ほどまでは攻撃速度を緩めていたのか。そして私の気が逸れたときに全力でハンマーを振る。サンダトーンはその瞬間をうかがっていた。
声にならない悲鳴をあげ、私の体が吹き飛んでいく。やがて地面に触れ、地面にめり込み始めた。止まったころには何も聞こえない真っ暗な地下だった。
「ま、まだだ…」
なんと声を発することができた。よし、まだ戦える。地面に這い出て、サンダトーンの方向に向かう。しばらくして、彼の姿が見えた。
『我の全力の攻撃を受けて無事なのは汝が最初で最後だろう』
「だからそれはいいよ」
攻撃を食らって目が覚めた。隙をうかがって、攻略法を見つけようなんて私らしくない。自分のしたいままに相手を侵すのが私のやり方だ。
私は再びサンダトーンに突っ込む。そして鎧を掴かんでそこに顔を近づけると、サンダトーンの手が私の頭を掴む。
『そのまま砕いてやろう』
私は彼の鎧に歯をたてる。それならこっちはかみ砕いてやる。ありったけの力を顎に込める。
砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…
ガキィッ!!
上の歯と下の歯がぶつかり合う。砕けた鎧の間に顔を突っ込み中の鉄部品やチューブなどを喰い荒らす。
サンダトーンは私を引きはがそうとするが、こちらも負けてられない。彼の体を掴んで抵抗する。しかしやがて腕が限界になってくると、大事そうなチューブを何本か咥えて腕の力を抜く。
勢いよく私の体が離れ、咥えたチューブが引きちぎられた。
サンダトーンの体が地に墜ちる。
_________
飛行生物の巣は危なげなく抜けた。俺は何もやってないが。
そんなことよりさっきまでのトータルさんの会話が気がかりだった。
本当にジャスティスの言いなりになっていていいのか。
そして俺にはトータルさんも知らないであろう矛盾点を抱えている。それはジャスティスの知るところか分からないが、なんとなく、俺は何か勘違いをしているように思えてならない。
やがてジャスティスが何かを発見する。
「見えてきました。獣人たちの村です」
残り1時間39分00秒
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