彼は無能だ 後編

俺とトータルさんの身体が発光し始めた。




「このままじゃ、魔法で森の外に追い出されるよ」




 まずい。このままじゃ、時間が減っていく一方だ。




「なぁ!俺たちはソードを探しているんだ!どこにあるのか教えてくれないか!?」


『ナニイッテルノ?あなたにはなにもあげないし、なにも望まない』




 その時、木の陰から人影が現れた。それはまだ成人してないであろう程の少女だった。茶髪をツインテールで結んでいる。そして素っ裸だった。




「うるさいわね~あんたたち…って、トータル!?なんであんたがここにいるのよ!」


「あら~ソードちゃんおひさ~、相変わらずカワイイねっ」


「うっさい!…で、何の用?あんたが丸腰でこの森に入ってくるなんてよほど急いでいるのね」


「彼に柄を握らせてあげて、わかると思うけど彼は勇者だよ」




 ソード?この少女がそうだというのか?少女は俺をまじまじと見つめる。




『アノ…ソードさま、ハヤク追い出したいんですけど…』


「ちょっと待って」


『は…はい』


「……。ふぅ~ん、そういうことね」




 どういうことだ。




「いやよ」


「え?」


「ええ~そりゃないよソードちゃん~」


「だって何の力も感じないわ。見るからに無能そうだし。カオルの馬鹿は性格は最悪だったけど、私の主にふさわしいほどの魔力を持っていたわ」




 待て。今なんて言った?カオルだと?あいつも異世界人で勇者なのか?




「元ね、ほかに用がないなら帰って頂戴」




 ソードは俺たちを手で追い払う。




「実はウチ、丸腰ってわけじゃないんだ~」


「はぁ?」


「ジャスティスちゃんから手紙を預かっていてね~」


「そんなのしか持ってないことを丸腰っていうのよ」


「そっれはどうかなっ、王国騎士長様からのお手紙だよ」




 トータルさんの体から光の玉が飛び出して、ソードの手元で手紙に変形した。




「ふ~ん、どこの誰だか知らないけど…」




 手紙の中身を見た瞬間、ソードの顔色が変わった。




「………」




 ソードの口角がみるみる上がっていく




「こんなこと言われて放っておけるわけないわね」






 ____________






「あれはマサヨシくんたちじゃないか?」




 カオルは向かってくる男と少女と黒棒を発見する。




「どうやら無事につれてこれたようですね」


「よかったあ~」




 なんだかよくわからないうちに森から出ちまった。手紙を渡すだけならトータルさん一人で十分だったんじゃないか。




 「貴方は無能だけど、この森に入ってきた勇気だけは評価するわ。森から追い出された者は心を潰され例外なく精神崩壊して話すこともできなくなるものね」




 森に入る前ジャスティスにあれこれ聞かなくてよかった。先にそんなことを言われたら森に入る前から精神崩壊していたかもしれない。




「あの手紙だけじゃ私はオーケーしてなかったわよ、臆病者とはつるみたくないしね」




 そんなことよりそーどさん、あなたはいつまでふくをきないんですか。




「永遠に着ないわよ。なんで私が人間の真似事しなきゃなんないのよ」


「なんだよそれ!いいから何か着てくれ!こっちが恥ずかしいんだよ!!」


「はあ…これだから人間は。いい?あんたたちは服に着られているの。服は言わば寄生虫よ!己をさらけ出す勇気をすすって、あんたたちにおんぶされて楽々してるんだわ!そんな気持ちの悪い奴に触りたくもない!」


「服を作ったり、着たりすることを生きがいにしている人もいるんだぞ」


「はぁ…カオルはそんなこと言わなかったのに。それがあいつの唯一のいいところだったわ」




 頭がおかしいだけだろ。






 そうこう言っているうちにジャスティスたちと合流した。




「カオル…あんた変わったわね」


「君は変わらないね」


「何その口調!気持ち悪っ!」


「さて、トータルさん、マサヨシ様、二人ともお疲れ様でした。早速ですが現在の状況を説明します」




 ジャスティスは魔族の共鳴が時空を歪ませていることを話した。




「魔族をどうにかしろってわけか」


「そうです。絶滅させます」


「何も絶滅させなくても…ある程度数が減ったら解決しないのか?」


「数の問題ではありません、魔族がこの世に存在するかしないかが問題なのです」




 そういうもんなのか。よくわからん。




「あまり数理的に考えない方がよいですよ。ここは科学の世界ではないので」




 どうやら本当に神様だったらしい。科学という言葉を知っているとは。




「しかし具体的にはどうするのでしょう。さすがの僕でも絶滅なんていくらたってもできないですよ」


「あの…私あんまり力になれないと思います。魔物は殺せません…」


「殺せないってあんた、あれは生き物じゃないわよ」


「え?」


「大体の魔物は斬ったことあるけど、魂が消える感覚は一度もなかった。多分あれは魔王の魔力で動いているだけだわ」


「その通りです。安心してください」


「ならいっかぁ…」




 いいのか…。ジャスティスは説明を始める。




「簡単に言うとここにすべての魔族を集め、融合させ、数体の魔物にします。もちろんすべての魔族の魔力使いますから、非常に強い力を持っています。一体で一つの大陸を壊滅させるでしょう。魔物の召喚にはマサヨシ様の持っている杖を使います」


「え?これを?」


「はい」




 この杖にそんな力が…。トータルさんが貴重だって言ったのはこういうことなのか。しかし、なんだってヒーナがそんなものを持っていたんだ?それにジャスティスは俺が杖をもらうことを予測していたのか?




「マサヨシ様、杖を貸してください。魔物の召喚は私がやります」


「その魔物を私たちが狩るということですね」


「いえ、ある方に単独で魔物を処理してもらいます」




 ジャスティスはその人物に目を向ける。




「アルティメット・ランキングさん」




 アルは呆然とする。




「貴方とはこれでお別れです」






 残り?時間??分??秒


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