彼は無能だ 前編
「トータルさん、助けていただきありがとうございます」
「気にすることないって~、実をいうとあの意地悪な試練はウチが提案したんだヨ。これからもっと恐ろしいことが待っているからネ」
「はぁ…」
「それよりその杖もっと大切に扱わないと。それ、かなり貴重な魔法具だよっ」
俺は貰い物の杖で魔獣をぶん殴ろうとした。それが価値があるものかどうかの問題だ。反省。もし魔王討伐が終わったら返しに行こう。
「さぁ~て、移動するよ~。ソードちゃんの居場所、サベツの森にねっ」
そういうや否や、トータルさんは宙に浮き、円盤状になった。
「さあ乗った、乗った」
俺たちが乗り込むと、さらに上昇し、高速移動し始めた。ワンタンに乗った時と違い、今度は一切風を感じない。
______
「ジャスティス様、紅茶はいかがです?」
カオルはどこぞから取り出したティーセットでお茶を入れ始めている。
さっきの無双ぶりを見ているとこいつ一人でも魔王を倒せるんじゃないかと思えてくる。ジャスティスが言うには一度倒しているそうだし。異世界転生してチート能力を授かったんじゃないだろうか。もしそうならば、同じ異世界人として嫉妬してしまう。おまけに男も惹かれそうなほどのイケメンだし。
「結構です。それよりマサヨシ様、サベツの森にはトータルさんと貴方の二人だけで入ってもらいます」
「そりゃぁまたなんでだ?」
「リスク分散のためです」
ありがたい。ジャスティス、カオルの二人と離れる不安より、アルと離れられる喜びの方がはるかに大きい。しかも同行者が一番信頼できそうなトータルさんときた。
「見えてきました。あれがサベツの森です」
一見するとただの広葉樹林だ。
「なあ、このまま上から目的地に着陸出来ないのか?ソードの位置は分かっているんだろ?」
「意味ないですよ。あの森は空間がねじ曲がっていますから」
いちいち質問するのも疲れてきたので、黙って森の入り口から入ることした。
森の中をトータルさんとしばらく歩いたが、森の中もいたって変わったものはなかった。暇なので左手の数字をチェックする。
2-01-21
ジャスティスは残り2時間前にソードを手に入れる予定だと言っていた。あと1分ちょっとで何とかなるのか?となりのトータルさんに聞いてみたが、わざとらしい笑い声を発するだけだった。
__________
「ねえ、ジャスティスさん…二人が入ってからどのくらい経ちました…?」
カオルが携帯食をかじる。
「これはどういうことなんだ…?」
ジャスティスは服のベルトを一つ外す。
「既に3時間が経過しています」
残り?時間??分??秒
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