ばかやろう 前編
「聖剣『ソード』は異界の存在にしか使えません、マサヨシ様、貴方にかかっています」
色々とツッコミっをいれたいとこれろだが、「あと数時間の辛抱」という気持ちが俺の脳に先ほどの説明を仮了承させた。
「そのソードとやらで魔王をたおすのか?」
「まだ言えません。」
「どうせあと数時間でわかるじゃないか」
「今ソードの役割を説明すると魔王討伐の成功率が大きく下がります。どうかご理解の程を」
「そ、そうか…」
こいつはあの神以上に何を考えているのかわからない。すると黒鉛筆が、
「それじゃあさっそく出発ね~、えーとソードちゃんがいる場所は…」
その時、外で爆発音が響いた。
カオルが扉を開けると、辺りは異形の怪物どもで埋め尽くされ、人々を襲っていた。
「なんだこいつら!?」
「魔族です。魔獣が中心のようですね」
「やだ~こわい~」
直後、ジャスティスの言葉に耳を疑った。
「予定どうりです。行きましょう、トータルさん、ソードの場所は特定出来ましたか?」
「ばっちーだし~、それじゃあ大魔術師トータル様の力をみ~せ~ちゃ~う~よ~」
は?こいつらこの惨状を無視しようとしている?
「ちょっ、街の化け物はどうするんだよ!?」
「無視します。必要な犠牲です。この計画は最小限の被害を前提としています。彼らを救えば、それ以上の被害が発生することが分かっています。そして何より」
「時間が足りない」
啞然とした。もう脳がオーバーヒートしそうだ。
「おまえらはいいのか!?ほうっておいて!」
「僕はジャスティス様に従うよ」
「早くソードちゃんに会いたいんだけど~」
「すみません…私人間しか殺せないんですぅ…」
なんだこいつらは。本当に頭がいかれてるじゃねえか。
おれはどうすればいい?答えはきまっている。おれはあと数時間、馬鹿をやるってきめたんだ。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
魔獣に突っ込んでいった。その魔物は果物を入れたカゴを持ったおばさんに襲い掛かろうとしていたが、大声で向かってくる俺に気づき、方向転換した。
俺はヒーナからもらった杖を振りかぶり魔獣の鼻先めがけてふりおろす。
ドゴォッ!!
刹那、目の前が真っ黒になった。どうやら杖より先に俺の頭が激突したらしい。魔獣もまた俺に突っ込んだのだ。
はは…こりゃあ死ぬな。人生の最後にこんなハチャメチャを体験できてラッキーだ。これで死んだら俺はどうなるのか。やっぱりただの無にかえるのか。
いや、神様だっていたんだ。きっと死後の世界だってあるはずさ。死後の世界で何をしようか。ギターをはじめてみたいな。いや待て、俺は世界を救うという使命を果たせなかったから、地獄に落ちるんじゃないだろうか。
……………。今さら後悔してきた。魔獣に突っ込んだことじゃない。むしろ地獄のほうがかえって退屈しないかもしれない。数十分前の自分の人生に全くの意味が無いことに気づいたんだ。
なんであの時、俺は首を吊ったのか。
俺はこの世界に来てから楽しかったんだ。テレビの中のキテレツな芸人を見て笑うような面白おかしさじゃない。オナニーや小学生でも読めるような逆転系物語の小説を読んでいるときのような心地良さでもない。心臓を削られるような情動を感じたんだ。
なのに俺はあの世界でそれを感じるチャンスを手放した。アホか俺は。俺はあの世界じゃ言いなりロボットのままだ。
しかしまあ、それに気づけたってことは、あの神に感謝しないとな。
「起きてください」
ジャスティスの声?
「予定どうりです。貴方の覚悟を確認しました」
ジャスティスの顔が見える。
「最小限の被害を前提としていると言ったでしょう」
ジャスティスと目が合う。
「誰一人死なせません」
残り2時間27分01秒
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