第4話 エステのわがまま
「嫌よ!」
「シンと離れるなんて嫌!絶対にアカデミーになんて行かないわ。」
「エステ、わがままを言っちゃいけないよ。聞き分けてくれ。」
「そうよ、貴女は公爵家の娘なの。お姉様達も通ったアカデミーなのよ。貴女が行かないと示しが付かないわ。」
「私はシンと離れたくないのです!」
と言いながら、姉様は俺を抱きしめて離さない。今生の別れでもないのに、エステ姉様からは悲壮感が溢れている。
「姉様、父様と母様を困らせちゃダメです。夏と冬のお休みにはお屋敷に戻られるのでしょ?」
「ダメよ!私は毎日シンに会いたいの。」
「あなた、、どう致しますか?」
「こうなったエステは、絶対に折れませんわ。何か方法を考えて下さいまし」
「儂か!儂が考えねばならんのか?」
精悍な顔に更に渋く眉間にシワが寄っている。
公爵家という看板、圧倒的な財力。そしてアダルティな風貌。貴族社会の中でも、隠れファンは沢山いるらしい。それでも母様を一途に愛し、そして尻に敷かれている。会話の端々に、仲の良さを感じる。
「アスラウス、、何か良い案はないかのぅ」
そう父アスター公爵が呟くと、一人の執事服を来た壮年の男性が父に応えて前に出る。片目にモノクルを付け、漆黒の執事服に赤いネクタイが良く映える。よく見ると、頭に狼の様な二対の耳が生えている。そしてお尻からは尻尾がフリフリと揺れており、一目で人間とはないと分かる。
彼は、アスラウス。公爵家のお抱え魔法士であり、父の友人でもある。そして、獣人でもある。この公爵家けもみみが大好きなのだ。家の執事やメイドは殆どが獣人族。なんでもふわふわの耳としっぽが堪らないらしい。性癖である。
「カイン様、貴方の娘も貴方の若い頃そっくりで頑固ですね。子は親に似るものですね。」
「アスラウス、その話は今でもなくても良かろう。何か妙案はないものか。知恵を貸してくれないか?」
「エステル様一年だけ待てますか?あのアカデミーは特進クラスがあった筈、シンならば飛び級で合格が可能でしょう。ただシンが12才にならないと受験出来ません。だから一年だけお待ち下さい。」
「シンの才能であれば、何なく合格になるでしょう」
(ん、?そんな制度があったのか)
「うむ、それが落としどころじゃな。エステ、これ以上の譲歩は出来ないよ。一年だけ我慢しなさい。」
「一年も、、、そんな。」
エステルが見るからに落ち込んでいる。
だか、父様も母様もアスラウスさんも俺の意向を無視して話を進めないで欲しい。
姉さんがアカデミーに行っている間に、色々計画を立てていたのに、、、
「分かったわ!一年だけ我慢するわ、良いわねシン?絶対に一年後にはアカデミーに来るのよ。来なかったらしょうちしないわ。」
(これは、断れない雰囲気だ、姉様から発するオーラが怖い)
俺はただ諦めて頷くことしか出来なかった。
結局この姉には逆らうことは出来ないのだ、、
異世界転生、英雄への軌跡 かのん @canon123
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