第3話 そして10年が過ぎた

結局、エステの弟宣言から2ヶ月経っても縁者は現れず、そのままアスター公爵家の家族に迎えられた。


貴族の家系に赤の他人を迎える事を簡単に決めて良いのか?と思ったが、才能のある者を家に迎えるのは、たまにあるらしい。


俺に才能があるのかは分からなかったが、あの後色々調べられ、結局エステ姉様の弟として認められているのだから、そこはクリアしたのだろう。


そして、この世界に迷い込んでから、10年が経った。10年間色々情報を集めたが、どうもここは現代日本がある世界では無い様なのだ。


言葉が文化が違う。なんと言ったら分からないが、世界の理そのものが違う様なのだ。その最たるものが、魔法である。


体内のオド(ラノベ的には魔力かな?)を燃料にして、オーディ(言霊って言えば分かるかな?)例えるなら詩の様な物を鍵にして、世界の理に干渉する技術。簡単に言えば、何もない所に火を起こしたり、水を出したり、風を起こしたり出来る。


この世界の人々は、程度の差はあるが、皆生まれた時からオドを持ち、当たり前の様に魔法を使う。生活の一部、文化と言っても過言ではない。


文明レベルは思いの外高く、機械の類も多く開発されている。どうも現代日本に通ずる、つまり開発コンセプトが似ている物もあり、俺は他にもこの世界に迷い込んだ人が居るのではと期待を持っている。


自分もその辺りの専門知識を持っていれば、この世界で大儲け出来たかもしれない。だが残念ながら、ど文系だったのが悔やまれる。


それは置いておいて、

10年間他の生存者や同じ世界の人間がいるのか?そんな情報も取りうる手段は総動員して集めたが、全く成果はない。気配はあるのだが、そこに辿り着けない。


あと3年もすれば、王立アカデミーに入学の予定だから、情報を集める手段をより多様化して、発展させたい。


もしかしたら、世界には俺一人だけなのだろうか、、?


だいぶ慣れたが、今でも日本が恋しい。

置いてきた物が沢山あるから。


ともあれ、もう行かないと姉様が怒るから、ここらで筆を置こうと思う。


星王暦355年 アリエスの月 25日

シン・スピネル・アスター10歳


*


「遅い、、あの子は何してるのかしら、姉である私を待たせるなんて、お仕置きが必要ね。」


お屋敷の中庭のど真ん中で、美しい金髪を風で揺らしながら、美少女が仁王立ちしている。腕組みをして、私は不機嫌です。と全身で表している様だ。


「姉様、お待たせしてしまい申し訳ありません。」


「シン、遅いわ。もう五分も待ったのよ。これはお仕置きしても良いわよね?」


「姉様、約束の時間は後10分後です。約束は15:00ですよ。今は14:50です。」


「そうだったかしら、まぁいいわ。」


「シン、今日は魔法の練習をしましょう!炎の魔法メイガスの写本に書いてある事を理解出来ないわ。教えて頂戴!!」


「はぁ、姉様にも家庭教師の先生がいるでしょ、、その先生に聞いて下さいよ。」


「嫌よ。シンから聞いた方が分かり易いもの。それにシンと一緒の方が楽しいの」


(この体は思いの外高スペックだ。運動能力や理解力や記憶力、オドの量も多分かなり高い)


本に書いてあるだいたいの事が理解出来てしまうのだ。まぁ前世と言っていいのか、日本でサラリーマンをしていた時の思考力もあるから当たり前か、


「分かりました、じゃあお勉強しましょうか。」


「そうね、お願いねシン!」


「ところで姉様、なんで中庭なんですか?勉強だから屋敷の中で良いのでは?」


「外のが気持ち良いからに決まってるじゃない」


それは気持ち良いくらいに、ドヤ顔だった。姉様は優秀なのだが、性格がとにかく真っ直ぐで、思った事は直ぐにやる。黒と白はハッキリさせる。気持ち良い位に前向きな女の子だった。


正直、姉様が居てくれて助かってる。

最初の頃は、言葉も分からない。世界で自分ただ一人しか居ない。どうしていいか分からない。ネガティブな思考の大バーゲンだった。


でもこの姉様は、そんな気持ちを吹き飛ばしてくれた。寂しさも悲しみも喜びや楽しみで埋め尽くしてくれた。本当に感謝している。


「じゃあ姉様、お勉強頑張りましょうね」


「そうね!優しく教えてね!」


*


「姉様、まだ30分しか経っていないのですが、、、」


「飽きたわ、私は実践派だと思うの。座学だけだと、いまいちピンと来ないのよね。」


「だから、演習場に行きましょう!」


実際、姉様は天才肌だ。

座学は苦手だが、分からない所を噛み砕いてポイントを教えてあげれば、直ぐに理解してしまう。


メイガスの写本は既に初級レベルだが、普通なら姉様の年齢で扱えるものではない。王立アカデミー初等部の卒業生レベルで漸く理解出来るかどうかだ。


まぁ貴族の中でも武を司るアスター公爵家は、世界の平均よりも高いオドと魔法の理を理解する感覚に優れている。そこに英才教育が加わるのだ。優秀にならない訳がない。


なんて事を考えていると、、、

案の定。


「ちょっとシン?何をしてるの?私を待たせるなんて、良い度胸よね。早くいらっしゃい。」


これ以上姉様を待たせないように、小走りで姉様の所に駆けていく。これがアスター家での日常であった。日々はあっという間に過ぎていく。


そして1年後、姉様が王立アカデミーに入学する時が来た。

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