第2話 生きてたよ、、俺

「赤ん坊が目を覚ました様です」


そんなメイドの報告を聞き、私は急いで赤ん坊の寝ている部屋に向かった。あの子の事は、お父様が演習場近くの災害現場から連れ帰って来た時から、気になって仕方なかったのだ。


「皆より先に会いに行かなくちゃ」


逸る気持ちを抑えて、上の姉達より先にあの子を確保して、私の物だと宣言しなければならない。


どうしてかは分からないけど、あの子は一目見た時から私の物にしたい!という気持ちが抑えられない。漆黒のオニキスみたいな黒髪と赤いルビーの様な瞳がとても綺麗で、どうしても目が離せないのよね。


(名前も考えてあるんだから!)


「お嬢様!?」


扉が勢い良く開け放たれ、金髪の女の子が入ってくる。その子は周りのメイド達にはわき目もくれず、ゆりかごで寝ている赤子の近くに行き、優しく声を掛ける。


赤ん坊が何やらよく分からない言葉?あーやらうーやら、言っているが、可愛いものだ。


「あなたは今から私の弟よ、そして、この私エステル・プリネ・アスターの物よ!」


「あなたの名前は、シン・スピネル・アスターよ、良い名前でしょ?」


高らかに赤ん坊を上げて、そう宣言する。4歳位の女の子だ、赤ん坊とはいえ、かなりの重さに感じるはずだが、、

案の定。


少女がフラついて、倒れそうになる。

そうなると赤ん坊も支えられなくなる訳で、


「お嬢様!!」



危うく、何の身動きも取れないまま死ぬ所だった。ギリギリの所でメイドさんが支えてくれなければ、頭から落ちていたかもしれない。


お嬢様とやらが、メイドに優しく注意されている。綺麗なメイドさんに抱かれているのは嫌な気がしない。ネコミミが付いているのが気になるが、何かの趣味だろうか。


とりあえず状況を整理しよう。

俺は飛行機事故に巻き込まれたハズだ。

あの状況、もう絶対死んだと思ったが。


何故か俺は生きている。だが赤ん坊になっているのはなんでだ?


というか太平洋上だったハズだから、あの位置だと海に沈むしか選択肢が無かったハズ。どういう事だ。


(うーん、分からん!)


と思案していたら、偉そうな髭の生えた精悍なオジ様と、その後ろから物凄い美人の妙齢の女性が入ってきた。


(すげー、カイゼル髭なんて初めて見たよ)


「○△□△☆○□」


相変わらず言っている事が分からない。

何語なんだ、これは。太平洋のこんな場所にこんな言葉を話す民族がいただろうか。とりあえずもう少し大人しくして、状況を把握する他ないな。


(まぁ動けないし、言葉も出せないのだが)


この状況、夢なら早く覚めて欲しい。



「おお、目が覚めたのか」


「お父様!!」

「私、この子を弟にしますわ!」


唐突に兄弟を増やしたいと言う娘に、同じく金髪の美人が優しくたしなめる。


「エステ、ダメよお父様を困らせては」

「落ち着いたら、身寄りを探さないと」


「イヤです!この子は誰にも渡さないわ。絶対にです。名前も決めたんですから!!」


「はぁ、この子は一度言ったら、聞かないからな。そこまで言うなら、エステ。2ヶ月待ちなさい。事故現場付近で両親か縁者がいるか探して、それでもダメなら、考えよう。」


「はぁ仕方ありませんわね。あなたもエステには甘いのだから。」


「勿論です。お父様、お母様。私が最高の弟にしてみせますわ。」


「いや、だから。まだ決まった訳じゃないのよ、、、」


「あなたは、シン。私の弟、シン・スピネル・アスターよ!!」


「宜しくね!」


(はぁ、この子は思い立ったら、それしか頭に無いのだから。将来が心配だわ)


そんな母親の苦悩が微妙な苦笑とため息から察せられるのであった。

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