みんなでダウト!

 ーーーー未だに喧嘩が終わらない2人。


 流石にこれ以上やられるのはご近所迷惑になってしまうし、一緒に過ごすのであれば仲良くして欲しいと思うのが男と言うもの。


「……って言うわけで、何かいい案はないかセシリア?」


「……そうですね」


 2人の争いを他所に、この状況の打開策を相談してみる。

 セシリアも、争いをやめて欲しいと思っているのか、少しばかり思案した。


「ここは一つ、ゲームでもしてみるのは如何でしょうか?」


 そして、セシリアは一つの案を思いついた。


「ゲームか……」


 確かに、それなら遊んでいるうちに仲良くなってくれるかもしれない。

 平和的解決ーーーーうん、素晴らしい。


「流石はセシリアだ。ありがとうな」


「い、いえ……」


 何故か顔を赤くしていたセシリアだが、とりあえず気にしないことにする。


 ーーーーという訳で、ゲームをすることになった。



 ♦♦♦



 みんなで遊べるゲームは何か?

 そう考えた時、トランプを思いついた。


 これなら難しいルールではないものであればケルも覚えれるし、パーティーゲームとしてはもってこいだろう。


 思い立ったが吉日。


 なので俺は喧嘩している2人を一旦止め、リビングのテーブルを囲うように座る。

 初めてと言う訳でケルにルールを教えて、『ダウト』をすることにした。


「銀髪ダウト!」


「残念でした!私は嘘をついていないのです!」


 トランプをめくり、カードを表にするアリス。


「う、うぅ〜〜〜ッ!」


 そして、悔しそうな顔をしてケルーーーーの代わりに、アナベルがカードを回収した。


 〜次順〜


「ケルちゃんダウト!」


「違いもん!ばーか!」


 トランプをめくり、カードを表にするケルーーーーの代役のステイ。


「泥棒犬のくせに〜〜〜ッ!」


 そして、悔しそうにアリスがカードを回収する。



 そんなやり取りをほぼ毎ターン繰り返し、俺とセシリアはあがってしまった。

 せっかくの『ダウト』ーーーーにも関わらず、一度もダウトされることも無く、カードを出すだけで終わってしまった。


 セシリアも俺と同じ状況なのか、あがったのにも関わらず、その表情は渋いものだった。


 ……まぁ、それもそうだろう。


「ダウトダウトダウト!」


「ど、泥棒犬のくせに中々やるね……!」


 何せ、2人でダウトしているのだから。

 俺とセシリアって意味あるの?交流を深めようと思わないの?

 さっきから毎ターン、2人のどちらかが出す度にダウトしてるよね?


 おかげで手札が一向に進んでいない。

 終わる気配が一向に見えないのだ。


「……どうして、2人はずっとダウトをし続けるのでしょうか? これではゲームが終わりませんよ?」


「あー……多分あれだ。嫌いな相手にはダウトをしたがるお年頃なんだろう」


「そ、そう言うものですかね……?」


 釈然としないと言う顔でセシリアは2人を見やる。

 ……気持ちは分かる。俺だって釈然としないもん。


「あのさ二人とも……どしてダウトばっかり宣言するの?」


 その様子を十数分見守り、2人のダウトに割って入る。


「この銀髪が!」


「この泥棒犬が!」


「子供かお前ら」


 2人は互いを指さし、避難の矛先を変えようとする。

 いや……俺からしたらどっこいどっこいなんだけどな……。


「銀髪が悪いんだもん!ダウトばっかりしてくるもん!」


「この泥棒犬が悪いんだよ!嫌がらせのようにダウトばかりしてくるんだよ!?」


「銀髪!」


「泥棒犬!」


「「うぅ〜〜〜〜〜っ!!!」」


 そして2人は睨み合う。

 ……どしてそうなるの?


「……はぁ」


 俺は思わず深いため息をついてしまう。

 ……どうやったら2人が仲良くできるかね?


 ーーーーそうだ。


「ならこうしようぜ二人とも」


「「うにゃ?」」


 2人は互いの頬を引っ張った状態で、俺を見る。

 ……なんて可愛らしい声をあげるのだろうか?


 将来、この子達が悪い大人に連れていかれないか心配になってくる。


「2人のどちらかが1位であがれば、俺が2人にできる範囲で何でもお願いを聞いてやろう。逆に、俺かセシリアが1位であがれば、お願いはなしーーーーと言うのはどうだ?」


「「ッッッ!?」」


 その発言をした瞬間、2人の双眸は開かれ、ゆっくりとつねっていた手を下ろした。


 我ながら名案だと思う。

 これなら、2人は協力せざるをおえないし、その途中で仲良くなってくれれば万々歳。

 俺が少しお願いを聞いてやらないといけないと言う犠牲はあるがーーーーまぁ、2人のお願いくらい聞いてやるさ。


「……泥棒犬」


「……うん」


 そして、2人は互いの目を見つめ、大きく頷く。


「勝ったら魔王様に一日中撫で撫でしてもらう!」


「私が勝ったら、クロちゃんに一日中膝枕してもらうよ!」


 気合い充分と言う顔で、各々己の要望を口にする。

 ……どうして一日中なのか気になるがーーーー


「よっしゃ、じゃあもう1戦やるか!ーーーーセシリアも、よろしく頼むな」


 タダで負ける訳にもいかない。

 本気で俺達も勝ちにいかないとな!


「あの……楓さん?」


 すると、話を後ろで聞いていたセシリアがおずおずと、俺の服を掴んでくる。


「私達が1位になったら……そ、その……私もお願い、聞いて頂いてもいいですか?」


「……ん? 別にそれぐらいは構わんぞ。……まぁ、俺ができる範囲って話だがな」


「あ、ありがとうございます!私、絶対に勝ってみせますね楓さん!」


「そ、そうだな……」


 そんなに俺に聞かせたいお願いがあるのだろうか?

 ……別にいいけどさ。どっちに転んでも、俺がお願いを聞くのは変わらない訳でーーーー


(楽しそうならいっか……)


 気合いを入れてテーブルを囲んでいる3人の姿を見て、そんな事を思ってしまった。

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