ダウトの結果
という訳で第2戦。
チーム分けとなったダウトでは、2人が協力し合い、会話が弾み、和気藹々と楽しく行われーーーーなかった……。
俺は一体何を間違えたのだろうか?
俺の予想では、2人が密に話し合って相手のカードを予測、自分の好きなカードを互いに邪魔しないように熟知するーーーーそう言った過程で、仲良くなって楽しく行うつもりだった。
だがしかし、この目の前に広がる現状は如何なものだろうか?
「アリス、それはダウトです」
「……やるね、セシリアちゃん」
「お姉ちゃん、それダメだよ」
「ふふっ、残念ですね……私は嘘をついていませんよ?」
「うっ……」
剣呑とした空気。
張り詰められた現在進行形の我が家のリビングでは、誰も必要最低限しか言葉を発していない。
それほどまでに、皆真剣に『ダウト』に打ちこんでいた。
当初の目的である『アリスとケルを仲良くさせよう』も、こういった雰囲気では中々に上手くいきそうにない。
だがしかし、二人のコンビネーションは凄まじいの一言だろう。
互いに邪魔せず、なんだったらアシストし合うーーーーその間には会話なんて一切ない。
……子供っぽいからかな? 二人の息がピッタリだ。
「では、3です」
「……4」
ーーーーと、呑気な事を考えている暇はない。
やるからには勝つ。この勝負、セシリアも本気でやっているなら勝たないとな。
「じゃあ、5だな」
「ふふっ、クロちゃん……さっきも5を出したよね?ーーーーダウトだよ!」
先程の巡目に俺が5を出していて、今回も5を出したからなのか、アリスは声を上げて『ダウト』を宣言する。
ーーーーふっ、馬鹿め。
「プレゼントだアリス」
カードを捲る。
それはハートの5のカードであり、嘘をついていないということ。
ちなみに、一度目の方が嘘で、今回出した5の方が本物だったのだ。
素晴らしい策略。
伊達に魔王軍の最高知能言われてなかったぜ!
「うぅ〜〜〜ッ!」
そして、ペナルティの為にアリスに場のカードを差し出す。
アリスは悔しそうな顔をして唸っているが、ケルは失敗した事を咎めようとはしなかった。
……なんだかんだ、仕方ないと思ってあげてくれているのかな?
「……流石ですね楓さん」
「当たり前だ。こちとら元魔王だぞ? 部下や勇者に負けてられるかっつーの」
まぁ、それでもダウトされることもあるのだが、それはそれ。
というのも、アリスとケルって頭はあまり宜しくない……んだけど『勘』とかが凄いんだよなぁ……。
アリスは何故か野性的な勘で嘘を見抜いてきたり、嘘を通してきたりするし、ケルに至っては「嘘の匂いがする」なんて言葉を言ってくる始末。
……二人とも、すげぇな。
だけど、それも高確率ではあるものの、偶に外すこともある。
特にブラフをかけた時なんかはいい具合に騙されてくれるものだ。
「……5です」
「6ですね」
「……7」
「……8だな」
「9だよ」
そして、再びカードを回していく。
「これで10です」
「……お姉ちゃんダウト」
セシリアが出した瞬間、今度はケルが『ダウト』を宣言する。
それはまた嘘の匂いがするからなのか? カードをじっと見つめ、捲れるのを待つ。
その姿を見て、セシリアは薄らと嗤った。
「あらあら、私は今回も嘘をついていなのですけどね」
捲ったカードはダイヤの10。
またまたダウトが失敗した形になる。
「勇者、ごめん……」
「気にしないで!まだ次があるから!」
ーーーーしかし、勝ちに近づいて嬉しいという気持ちも多少にあるのだが、こうして失敗を慰め励ましあっている姿を見ると、それ以上に嬉しく思ってしまう。
ケルもアリスも根は純粋な優しくていい子だからな。
少しでも息があればすぐにでも仲良くなるだろう。
それにしてもーーーー
(セシリアが強すぎる……)
ブラフや読み合い、駆け引き……全てにおいて、セシリアが圧倒的すぎた。
所々読みを失敗する時もあるけれども、彼女は着実にいらないカードを上手く捨て、綺麗に嘘を見抜いていく。
「ふふっ、楓さんにお願いを聞いてもらうのは私なんですから……」
その発言に悔しそうな表情をするものの、アリスとケルは淡々とカードを切っていった。
♦♦♦
真剣勝負の結果としてはセシリアが先に上がった形となった。
枚数的な順位で言えば、セシリア→俺→ケル→アリスという順番になる。
本気も本気でやったのか、アリスとケルの表情はとても悔しそうであり、少しばかり可哀想かな?と思ってしまった自分がいる。
……明日、二人のお願いを聞いてやろう。
だけどーーーー
「勇者……私は勘違いしてたかも。変な匂いするけど、熱いソウルを感じた」
「こっちも、中々にいい熱いソウルだったよ……」
そして、ガシッと硬い握手を交わし合う二人。
うんうん、二人が仲良くなってくれてよかったわ。
……熱いソウルがいまいちよく分からなかったが。
「それで、セシリアはどんなお願いを聞いて欲しいんだ?」
二人が硬い握手を交わし合っている中、少しだけ悦に浸っていたセシリアに声をかける。
「そうですね……」
我に返ったセシリアが少し考え込む。
……俺のできる範囲でお願いしたいところだな。
「で、では……」
そして、思いついたのか顔を上げ、真っ直ぐに俺の顔を見る。
その表情は何処か恥ずかしげで、顔が赤みがかっていた。
「今度……一緒にお出かけしてくれませんか?……も、もちろん二人っきりで!」
なんだ……恥ずかしがっていたから何か俺にするんじゃないかって思ったんだがーーーー出かけるぐらいはいいだろう。
二人っきりというところが引っかかるが、荷物持ちぐらいしてやろう。
セシリアも、この世界の物を買いたいって思っているだろうしな。
「おう、それぐらいなら大丈夫だ」
「あ、ありがとうございますっ!」
当初の目論見通り二人は仲良くなったと思う。
なんだかんだこうしてトランプで遊んでみるのもたまにはいいのかもしれない。
そう思ってしまった。
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