ケルって可愛いよな?

「ねぇ……クロちゃん……」


「どうしたアリス? お腹空いたのか?」


 ケルと遊んでから。

 日はすっかり暮れてしまい、そろそろ夜飯を作らないといけない頃。


 俺は夜飯を作ることなく、リビングのソファーに座っていた。


「違うんだよ……。お腹が空いているのはそうなんだけど、今はそんな事が聞きたいんじゃないの……」


 そう言って、ハイライトの消えた目で俺を見下ろすアリス。

 ……お腹を空かしているからこんなにも不機嫌なんだろうか?

 早く作ってあげないと。


「私はね、クロちゃんがお友達に会えて嬉しいって思ってる……クロちゃんが大切にしてきた人達なんだもん……よかったねって思う」


「お、おう……」


 では、どうしてそこまで怒っているのだろうか?

 アリスの不機嫌な声音に、思わずたじろいでしまう。


「でも……でもねーーーー」


「魔王様ぁ〜♪」


「ーーーー私はコレを許した覚えなんてないんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 アリスは己の叫びを指さして吠える。

 室内にいたセシリアと賢者が肩を震わせたのが横目で見えた。


「これって……ケルの事?」


「魔王様ぁ〜♪」


 指さした先には、俺の膝の上で顔をすりすりしてくるケルの姿。

 おーよしよし!ケルは可愛いなぁ〜!


「魔王様、もっと撫でて?」


「ん? いくらでも撫でてやるぞぉ〜」


「きゃー!」


 上目遣いでおねだりするケルに、俺は強めの頭撫でをしてやる。

 すると、ケルから嬉しそうな声と楽しそうな声が合わさったような声が上がった。


 あぁ……ケルが可愛い……。

 娘が出来たら、こんな気分なのかな?


「クロちゃんがぁ……私以外の女の子を甘やかしてるよセシリアちゃん……」


「はいはい、よしよし。仕方ないことだと思いますよー」


 理由はよく分からんが、何故かアリスがセシリアに宥めて貰っている。

 ……セシリアって、少し母性を感じるよなぁ。


「うんうん、君達は本当に面白いね」


 そして、そんな俺達の光景を見ていた賢者が、楽しそうな目をこちらに向けている。


「あんがとな賢者。ケルに会わせてくれてさ」


 ケルの頭を撫でながら、俺は賢者にお礼を言う。

 一応、なんか条件付きとは言え連れて来てくれたんだ。お礼ぐらいは言っておかないとな。


「気にしなくてもいいよ。こっちこそ、彼女には助けられたんだからさ」


「そうだぜい魔王様! ケルのおかげであって、賢者のおかげじゃねぇんです!」


「そうですよ魔王様。お礼はケルに言ってください……こんな屑ではなくて」


「ははっ!君達は相変わらず冷たいね〜!」


 まぁ、お前らの気持ちも分からんでもないが……。

 一応連れてきた張本人なんだからさ……お礼ぐらいは……なぁ?


「賢者、ありがと!魔王様に会わせてくれて!」


 俺の膝から離れたケルはトテトテと賢者の元に向かい、アナベルとステイとは違って、賢者にお礼を言う。

 満面の笑みからは本当に感謝が伝わってきた。


「こっちこそありがとうねケルちゃん」


 そして、賢者は笑みを浮かべてケルの頭を撫でる。


「うん!」


「やばい……この子が凄く可愛く思えてきたよ」


 ……ほんと、ええ子やなぁ。

 この子だけは絶対に守り抜こう。そうしよう。


「ところで楓さん……」


「ん?」


 泣きべそるアリスの頭を撫でているセシリアが俺に声をかける。


「番犬ーーーーもとい、ケルさんはこれから一緒に住まわれるのでしょうか?」


「お前たちさえ良ければ、一緒に住まわせたいと思ってる……こいつ、もう家族はこいつらしかいねぇからな」


 そう、今ケルはアナベルとステイしか家族がいない。

 そんな状態で「はい、さよなら」なんて真似はしたくないんだ。


 ……だが、人間と魔族は蟠りがあるし、こいつらが良ければって話なんだがーーーー


「私は構いませんよ。確かに、魔族には少し抵抗がありますが……家主は楓さんですし」


「私も……クロちゃんの家族なら問題ないです」


 優しい笑みを浮かべるセシリアと、セシリアの胸に顔を埋めるアリスが問題ないと言ってくれた。


「……ありがとな」


 人間として、魔族には嫌な思いもあるだろうに……本当に、いい奴らだよ。


 どうして、俺達は争ってたんだろうな?

 こうして一緒に過ごしてみて、平和的解決もあったんじゃないかーーーーそう思えてくる。


 ……まぁ、今更の話なんだけどな。


「ケル、こっちゃこい」


「うんっ!」


 賢者に頭を撫でられていたケルを、とりあえず招集。

 一緒に住むんだから、自己紹介ぐらいはしておかないとな。


「ほら、こいつらがこれから一緒に住む奴らだ」


 そしてケルの肩を掴み、二人の方へと顔を向かせる。


「初めまして、私はセシリアです。これからよろしくお願いいたしますね」


 まず先にセシリアが挨拶をする。

 アリスを離し、しっかりとケルの目線に合わせながら。


 するとーーーー


「……よろしく……です」


「ぐぺっ!?」


「ちょ、ちょっとケル!?」


 恥ずかしいのか、己の手に嵌っているアナベルとステイをギュッと抱きしめる。

 その所為で二匹が犠牲となってしまったが、勇気を振り絞ったんだな……偉いぞ!


「……楓さん、この子可愛いですね」


「だろ?」


 真面目な顔つきでそう零すセシリアに、真面目に同意する。

 分かってくれるよなー。すっげぇ可愛んだもんこの子。


「次に、こいつがアリスだ」


 そして、次はとアリスを指さす。

 そして、ケルはアリスを一瞥するとーーーー



「いやっ!」



 全力で嫌そうにした。

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