甘えん坊な二人

 転校初日、新学期初日。

 それぞれの初日を終えた俺達は、寄り道もせず、ただただ自宅までの帰路についていた。


 特徴的な銀髪と容姿が天使を連想させるような、ニコニコと可愛らしい笑みを浮かべるアリス。

 制服に着せさせられている印象がありつつも、この世の人間とは思えないほどの美貌を誇るセシリア。


 この二人が往来を歩くとなれば注目されるのは必然。

 加えて、現在は帰宅する生徒も多い時間。興味嫉妬の目が突き刺さるのも仕方ない。


「学校と言うのは、これ程までに注目を浴びてしまうものなのですか……?」


 生涯で初めての学校。

 新鮮で、楽しかったと零すセシリアでも、これ程までの注目は流石に驚くものがあるようだ。


「日本の学校はそうだよね〜!私も、ここに来た時はみんなからよく見られてたもん!」


 設定という名の姉妹関係を崩し、アリスはセシリアの話に同意する。


「言っておくが、日本の学校全てがこんなに注目浴びるわけじゃないぞ?ーーーーまぁ、お前達が通うであろう学校は、全てこんなに注目浴びそうだけど」


「言ってる事が分かんないんだけど?説明プリーズクロちゃん♪」


「そうですね……私も、楓さんの仰る事が理解できません」


 俺の発言に首を傾げる二人。


「いや、そのままの意味なんだがな……。ほら?お前らって、すっげぇ可愛んだよ。魔族だった俺ですら可愛と思うほどにさ。だから、そんなお前達がどこに行っても目を引いてしまうんだ」


 まぁ、これに関しては学校だけじゃないんだけどな。


 アリスと商店街に行った時とか、セシリアとショッピングモールに行った時とか。

 彼女達が注目を浴びなかったことがない。


 それほどまでに、二人は魅力的なんだ。


「か、かわ……っ!?」


「ふへっ、ふへへへへへへへへへへへっ」


 すると、二人の表情が変わった。

 セシリアは両手を赤くなった顔に当て、恥ずかしそうに顔を背けてしまうし、アリスに至っては頬を吊り上げて変な笑いをーーーーやめないさい、周りに変な目で見られちゃうでしょ。


「嬉しいこと言ってくれるなぁ〜クロちゃんは〜!」


 そして、弾んだ声でアリスが俺に抱きついてくる。


「はいはい、こんな発言で喜ぶのはお前くらいだよ」


 俺は仕方ないと肩を竦め、胸元で頬ずりしているアリスの頭を撫でてやる。

 ……ほんと、俺の言葉で喜ぶのはお前くらいなもんだよ。


「……あの」


 すると、おずおずと言った声を発しながら、制服の袖を引っ張られる。

 気になってセシリアの方を首だけ動かして見てみると、少し不貞腐れたような表情をしていた。


「私も……その、嬉しかったです……」


「……そうかい」


 体勢的にアリスに抱きつかれてしまっている為、頭を撫でてやることは出来ないが、変わりに背中に張り付いてきたセシリア放置することにした。


 ……ほんと、こいつらって勇者パーティーのはずなのに、どうして俺の言葉が?


 そんな疑問を抱きながら、歩きづらい体勢のまま自宅へ戻った。



 ♦♦♦



「「「ただいまー」」」


 ガチャりと玄関のドアを開ける。

 学校から我が家までは10分弱。この家はあの学校に通うには好立地すぎる。


 そのおかげで、アリスが遅刻ギリギリまで寝るものだから、好立地も考え物だ。


「さて、さっさと課題だけ先に終わらせるか」


「クロちゃん!私に教えて欲しいです!ついでに言うなら膝枕で!」


「膝枕でどうやって教えるんだ馬鹿野郎」


 この子は最近甘えすぎな気がする。

 いや、別にいいけどさ?少しは……いや、やめておこう。


 アリスに甘えて貰えるのは……その、少し嬉しいから。


 俺は少し複雑な気持ちを抱いてしまった為、少しの腹いせにアリスのおでこを弾く。


「あいたっ!」


「ほどほどにしろよ……?」


 Noとは言えないあたり、俺もアリスに甘いようだ。


「楓さん、私もその……」


 そして、セシリアもおずおずと尋ねてくる。


「分かってるって。勉強教えればいいんだろ?」


「いえ、私も……膝枕を……」


「お前もか」


 最近、セシリアもこういった行動が増えてしまっているような気がする。


 ……聖女としての立場から、甘えることが少なかったと聞く。

 だからなのだろうか?

 こうして甘えれる環境にいるから、こうして甘えてきたくなってしまうのは。


(もしそうなら、俺も無碍に出来ないんだよなぁ……)


 セシリアの幸せを望むものとして、彼女の甘えは叶えてやりたい。

 それは、一度己の中で決めたことであり、魔王として守り通さなければならない。


「しょうがないな……勉強終わったらでいいか?」


「はいっ!」


 だから、少しだけ渋りながら口にすると、セシリアは満面の笑みを向けてきた。


(……ほんと、魔王と勇者が聞いて呆れるな)


 それは別に悪い意味ではなく、いい意味として。


 肩を竦め、鼻歌を歌いながらリビングに向かうアリスの背中を追う。

 そして、彼女達と共にリビングのドアを開けるとーーーー





「やぁ、久しぶり。解決したから帰ってきたよ」



 ……何故か、賢者がいた。

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