聖女と勇者と学校

「セリアちゃんってどこにいたの!?」


「その髪綺麗だね!」


「是非僕と付き合ってください!」


 そんな声が聞こえてくる。

 セリアにあてがわれた俺の眼前の席。そこでは、セリアを取り囲むようなクラスメイトの群れが形成されていた。


(最後のセリフって告白だよなぁ……)


 会って数時間で告白。彼女の容姿と性格を考えれば分かる気もするのだが、些か急な気がしないでもない。


「セリアちゃん、人気者だねぇ〜」


「まぁ、そうだな……」


 俺の隣では、アリスがその光景を微笑ましそうに見ていた。


 実際、彼女は人目を浴びる。

 学内屈指の美少女であるアリスの妹(※設定)と言うだけでも注目を浴びるのに、その世界離れした容姿は男女問わず惹かれてしまうものがある。


 それが、こうして結果として現れていた。


「あ、あの……」


 同年代の少年少女に囲まれ、オロオロとするセリア。

 それもそうだろう。向こうでは同年代と話す機会が滅多になかったんだ。


 少しテンパってしまうのも仕方ない。


「それでも、悪いことじゃないんだよなぁ……」


「どうしたのクロちゃん?」


「いや……なんでもないさ」


 この経験は、絶対にセリアーーーーもとい、セシリアの幸せに繋がることだ。

 それは喜ぶべき事だし、例え今困っていそうでも、首を突っ込む事柄でもないだろう。


「最近、クロちゃんの私達を見る目がお母さんみたいで困ってる勇者です……」


 隣でよく分からない事を呟いているアリスに、とりあえず頭撫でで我慢してもらった。



 ♦♦♦



「あの……楓さん?ここの解き方を教えて頂きたいのですが……」


「おう、いいぞー」


 転校初日でも通常授業。

 その為、人生で初めての学校の授業に、セリアが疑問に思うのは当然の事だった。


 俺とアリスみたいな転生者ではなく、彼女は転移者。

 だからこそ、この世界の勉学というのは全く知らないものなのだ。


 それでも、彼女がこうして学校に通って違和感を感じないのは一重に彼女の努力のおかげ。


「ここの公式はこの問題に当てはめてもいいのでしょうか?」


「その公式は違うな。ちなみに、この問題はこれを使うんだ」


 一から日本の勉学を学び、未だに分からない場所はこうして聞きに来てくれる。

 たゆまぬ彼女の向上心。一人の女の子として過ごしていきたいが為に頑張る姿に、思わず手助けをしたくなってくる。


「なるほど……確かにそうですね」


「そうそう」


 そして、教えた箇所をしばらくじーっと見ると、やがて納得したかのように顔を上げた。


「ありがとうございます、助かりました」


「気にすんな。お前の生活をサポートするのは当然なんだ。気軽に頼ってこい」


「……ッ!?あ、ありがとうございます……」


 どうしたのか?

 セリアは顔を赤くして俯いてしまった。


 最近暑いからなぁ……熱中症じゃなければいいけど。


『アリスちゃん、いいの?妹さんに黒崎くん取られちゃうよ?』


『良くないです!……でも、頑張ってるセリアちゃんの邪魔もしたくないと言いますか……』


 何やらアリスのところが騒がしい。

 ……まぁ、学友との交流も大事だし、口を挟むのも良くないな。うん。


「どうだ?学校って言うものは?」


「えぇ……少し驚きましたけど、新鮮で楽しいです。皆さん、仲良くしてくれますし」


「ほう? だったら良かったじゃないか。聖女時代では味わない経験ーーーー賢者の野郎も満足だろうさ」


「ふふっ、そうですね」


 少し可笑しそうに、可愛らしい笑みを浮かべる。


『結構いい雰囲気だよアリスちゃん!?大丈夫なの本当に!?』


『大丈夫じゃない!あれは勉強と関係ないやつだもん!椎名アリス、突貫します!』


 パタパタ、と。

 騒がしかったアリスが、勢いよくこちらに向かって来た。


 ……どうしたんだろ?そんな血相変えて。


「アリス、どした?」


「いけません!何がとは恥ずかしくて言えないのですが、これ以上はダメです!」


 可愛らしく両手にバッテンを作るアリス。

 だから何がダメなんだよ?


「あの……アリス?別に私はあなたの邪魔をする訳ではーーーー」


「お姉ちゃん!」


「うっ!」


 力強いアリスの言葉に、言葉が詰まるセリア。

 別に、三人の時ぐらい名前で呼ばせてやれよ。


「お、お姉ちゃん……の邪魔はしません。そこは……その、弁えますし……」


『お姉ちゃん』という言葉を言う度に顔が赤くなるな。

 ……少し可愛いかも。


「弁えなくて結構だよ!私は、堂々と向かってきて堂々と邪魔して堂々とクロちゃんをものにしたいの!」


「俺は景品かこら」


 何の争いで何の景品なんだよ?

 さっきから話に全くついていけない。


「そ、そうですか……」


 そして、セリアはアリスの言葉を受け、少しばかり逡巡する。

 そして、にひるの様に口元を吊り上げた。


「では、私が勝ってもいいのですね?」


「むふん!私とクロちゃんの絆を舐めないでね!絶対にセリアちゃんには絆されないんだから!」


「ふふっ、望むところです」


 そして、最後には挑発的な笑みで笑い合う二人。


 ……さっきから、どうしたんだってばよ?

 何勝負してんの?魔王に内緒とかよくないと思うんだけど。


 まぁ、最悪内緒話はいいけどさーーーー


『あいつ、セリアちゃんと仲良さげだぜ?』


『殺すか?』


『殺そう』


 せめて学校じゃない場所でやってくんね?




 俺は飾りっけのない言葉に寒気を感じるのであった。

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